ウエダコウジとグリコの看板

自身の体験談を語る怪談師は決して多くない。その殆どは実際に怪異を体験した体験者から取材をし、聞き集めたお話を再構成して披露している。つまり取材こそが怪談師の命なのだ。我々怪談ガタリー編集部では、この取材という行為にフォーカスした企画を考えた。怪談師にお題を与えて、そのお題に則した怪談を取材をしてきて貰うのだ。
題して……怪談、聞いて来てもらえます?

さて、今回我々がチャレンジャーに選んだのはこの方——。

スリラーナイト道頓堀店専属怪談師のウエダコウジさん。

ここからは、ウエダさんの視点でお楽しみ下さい——。

突然の電話

はじめまして!
怪談師のウエダコウジです。
数ヶ月前、突然怪談ガタリーのボスからご連絡を頂きました。

ボス:怪談師のウエダコウジさんですか?
ウエダ:そうやで。
ボス:おめでとうございます!
ウエダ:?
ボス:おめでとうございます!
ウエダ:何が?
ボス:ウエダさんは『怪談ガタリー』のチャレンジ企画『怪談、聞いてきてもらえます?』のチャレンジャーに選ばれました。
ウエダ:え?
ボス:今回ウエダさんには、グリコの看板に纏わる怪談を調べてきて欲しいんですが?
ウエダ:何やて?
ボス:大阪のランドマークと云えば、やっぱりグリコの看板ですよね。是非それに纏わる怪談を調査してきてください!!
ウエダ:……気が向いたらやで。

その時俺は、出演してるYoutubeチャンネルのゴタゴタで少し錯乱していて、こんなふざけたオーダーについ安請け合いをしてしまった。

グリ下の若者

請けてしまったものはしょうがない。
とりあえず俺は、グリコの看板がある大阪ミナミをうろついた。
でもな——

いてへん! いてへん! いてへん!

そもそも日本人があんまりいてへんのや。
景気良さそうでええけど、今のミナミはどこもインバウンドの観光客さんばかりや。
困ったな——あいにく俺が喋れるのは関西弁だけやからな。

途方に暮れかけていた時ふと、グリコ看板があるひっかけ橋の下に若者がたくさんいることを思い出した。

大阪の繁華街道頓堀のグリコ看板付近(通称グリ下)には、虐待や経済困難などさまざまな背景をもった若者や子どもが、居場所を求めSNSなどを介して集まっている。
「グリ下キッズ」と呼ばれる彼ら彼女らも、話してみたら案外ええ子らかも分からへん。

ウエダ:グリコの看板に纏わる不思議な話知らんか?
キッズ:え?
ウエダ:グリコの看板やん。あの看板の怖い話ないかって。
キッズ:頭おかしいんか?
ウエダ:そうやんな。お前もそう思うやんな。ごめんやで。
キッズ:(爆笑)

明らかに年下の若者に笑われながら、俺は以前東京のイベントで一緒になった時のガタリーのボスの笑顔を思い出していた。
「あいつめ……」
心の中でそう思った。

ミナミのホスト

それから数日後。
俺は道頓堀川にかかるロッジでへばっている、ホストの兄ちゃんに話を聞いた。

道頓堀川は大阪ミナミを東西に流れる川や。
大阪の繁華街はその位置関係から「キタ」と「ミナミ」に分けられ、「ミナミ」と呼ばれるエリアには難波や、グリコの看板、かに道楽がある道頓堀、千日前周辺の繁華街がある。
ちなみに「ミナミ」という地名はなく、平成元年に東区と南区が統合してできた大阪市中央区が実際の住所。
なぜ「ミナミ」と呼ばれるようになったかというと、江戸時代に「天下の台所」と呼ばれ、今もなお大阪の経済・文化の中心地である船場から見て南側にあったことが由来で、そうした歴史背景もあり地元の人々は愛称として「ミナミ」と呼んでるんや。
そんなミナミにはホストクラブが170店舗ほど営業してるらしい。

ウエダ:兄ちゃん、グリコの看板に纏わる不思議な話知らんか?
ホスト:え?
ウエダ:あのグリコの看板やん。あれの怖い話ないかって。
ホスト:飛ばれた……。
ウエダ:え?
ホスト:(号泣)
ウエダ:どないした?
ホスト:姫に売掛飛ばれたんや……。
ウエダ:兄ちゃんの店、まだ売掛やってんのか?
ホスト:(泣笑)

彼はそれ以上、何も話さなかった。
ミナミはほんま仕方のない街や——でも何だか可愛げあるんよね。
ホストの兄ちゃんの顔を見てたら、またガタリーのボスを思い出した。
そして重要なことに気が付いた。
「やばい……納期だいぶ過ぎてる」

西成の量産型

場所を変えて、西成の量産型オッサンみたいな男が相合橋に居たから声を掛けた。

大阪市西成区・あいりん地区(釜ヶ崎)は、JR新今宮駅南側にあるドヤ街や。
あいりん地区は新町名導入前までは「釜ヶ崎」という地名で、昭和30年代の高度経済成長期に職を求める人が大量に流れ込んだ。
しかし、雇用が安定しなかったため暴動が続いた。
その影響で家族世帯が地域外の公営住宅に移動したことから、日雇い労働者の単身男性の割合が急増。
治安が悪く泥酔者などを狙った路上強盗がたびたび起こっていたが、平成25年実施の「西成特区構想」でほとんどなくなった。
現在は、宿泊料金の安さからバックパッカーの宿泊地として人気を集めている。
が、いまも数多くの路上生活者が生活しており、国勢調査でも正確な人口は把握できていない。
それ故、宗教団体やNPOが頻繁に公園で行う炊き出しの際には、長蛇の列ができることも。

まあ、昨今ではYoutuberさんやヒトコワ系の人達のネタの宝庫になってるけど、実際行ってみるとちょっとガラが悪いくらいで結構普通の街やで。

ウエダ:おっちゃん、グリコの看板に纏わる不思議な話知らんか?
量産型:知らん。
ウエダ:そうやんな。いま、お化けの話探してるんよ。
量産型:幽霊か。幽霊なら週に何回か出るで。
ウエダ:え?
量産型:もう何十年も前に、引っ掛け橋で知り合った女がおってな。その女のお化けが出るんや。
ウエダ:どんな感じの?
量産型:どんな感じて……お岩さんみたいに目のとこ腫らしとるんや。
ウエダ:それほんまなん?
量産型:ほんまやん! まあ、もう慣れたけどな。
ウエダ:何十年も前の恋人やろう? なんでおっちゃんの家に出るんや?
量産型:知らん。
ウエダ:心あたりとかないんか?
量産型:……知らん。
ウエダ:そうか、また家遊びに行っていい?
量産型:あかんに決まってるやろ。
ウエダ:そうやんな、ありがとうね。
量産型:でもまあ……あんだけ殴ったったら化けて出られても仕方ないで(笑)

見ると、オッサンの拳は奇妙な形に凹んでいた——。
これは怪談じゃなく——ヒトコワやな。

結果的に今回、グリコの看板に関する話は見つけられなかった。
でもたぶん、このオーダーがあるという事はきっと「大阪」や「道頓堀」に関する怪談に興味がある方がいらっしゃるのかもしれない言う事やね。
引き続き調べてみます!

最後に、普段は「スリラーナイト道頓堀店」と言う怪談ライブバーで怪談を語っています。
大阪で唯一、本物(ほんもん)の怪談が聞けるお店って事で、毎晩たくさんのお客様に可愛がって貰ってるお店です。
大阪にお越しの際は、是非一度覗いて見てくださいね。

検証結果
グリコの看板に纏わるお話はすぐには見つからない。なお関西在住の怪談作家クダマツヒロシ氏にも聞いたが持っていなかった。

リンク
スリラーナイト道頓堀店

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