はじめに

「今度怪談のWeb情報誌を立ち上げるから、そこでエッセイ書いてよ」
「……なんで僕ですか?」
「面白いの書いてるじゃん。だから書いてよ。自由にやっていいから。連載ね」

到底正気とは思えない雑なオファーをきっかけに、この連載企画は始まっている。やりたい人は他にいくらでもいるでしょ、という言葉に対し「好きに書いていいから!頼むよ」と『怪談ガタリ―』の編集長であるH氏は、なぜか頑なに譲らなかった。結局、同氏の熱量に根負けした僕は今PCと向き合い冒頭から頭を捻くって何を書こうか悩んでいるわけである。

皆様はじめまして。クダマツヒロシです。

愚痴と挨拶を終えたところで、適当に界隈のトピックを拾ってだらだらと書き始めるのも良いのだが、せっかくの第一回目だ。
まずは「そもそも『怪談ガタリ―』って何なの?」という部分に目を向けてみようと思う。

怪談ガタリ―とは?
〈怪談界隈のニュースを含めたコラム、エッセイ、書評、イベント情報を発信し、怪談カルチャーに纏わる人・物・事の最新情報をお届けするメディアコンテンツ〉

昨今の怪談カルチャーの普及によって、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で多くの怪談に関連したイベントが行われるようになった。東京などは週末にでもなれば、大小様々な怪談イベントが各所で乱立している状況である。
例えば何かのきっかけで怪談に興味を持った人がいざイベントに足を運んでみようと思い立っても、肝心の開催情報はXなどのSNSや各演者の告知ぐらいしか知る術が無い。
「怪談イベントに行ってみたいけど、いつどこで誰がやってるの?」という具合だ。
これは怪談カルチャーを成熟させていくうえで、クリアしなければならない大きな課題でもある。この課題を解決すべく、イベント情報をひとまとめにし、サイトを覗くだけで最新の開催情報を把握できるような、文字通り怪談カルチャーの〈今〉を発信することが当サイトの役割なのである。
そんな場所でエッセイを連載するというのだから、これから先、僕が書いた文章は多くの人の目に触れることになる。
コラム、書評に関しては、恐らくその道のプロや手練れが毎回皆さまに有益な情報を提供し楽しませてくれるとして、そこに混じるとなるとこのエッセイも相応に面白いものを載せないといけない。しかし如何せん何を書くのかテーマさえ決めずに走り出しているものなのだからどうしたものか。
母体が怪談のメディアコンテンツなのだから、怪談に纏わる何かを発信しようと思うのだが、界隈のアレコレに触れてあーだこーだと書くだけでは芸がない。

そういうわけで、ここでは僕が怪談蒐集の活動の中で経験したエピソードを中心に、それらをオモシロおかしく発信し皆さまに楽しんで頂ければと思う。

テーマは「怪談周辺のヘンな風景」
これは僕が怪談を集め、語り、書くという活動においてとても大切にしている部分でもある。
怪談の蒐集とは総じて一筋縄ではいかないことの方が多い。もちろん個人差はあるし、体験者から「体験談を聞いて下さい」と直接連絡を頂くこともあるが、自ら街へ繰り出して取材を行なう語り手や怪談作家も少なくはない。
場所やシチュエーションは人それぞれにあるだろう。
例えば居酒屋。隣席の客と上手く交流しながら、我々は虎視眈々とタイミングを狙っている。
「ところで……僕、昔から不思議な話とか怖い話とか大好きなんですけど、何かそういう体験ありませんか?」
運が良ければそこから体験談などを聞かせて貰えることもあるが、大半は「あぁ?怖いハナシィ?ないない!ないよ!」と一蹴されることも少なくない。
そもそも全員が心霊体験をしているわけでもないのだから当然である。そこで僕はいつもこう訊ねている。
「なんかヘンな体験したことあります?」
僕にとっては心霊体験であろうが、筋の人に○されかけた話だろうが、不審者と遭遇した話だろうが、面白ければなんでも良いのだ。
そんな取材を続けていると、怪談と呼ぶには心許ないが面白い(あるいは馬鹿馬鹿しい)奇妙なエピソードに出くわすことがある。
僕はこの怪談周辺の、他の怪談師や怪談作家がポイと捨ててしまうようなエピソードが大好きなのである。
些細な体験談の周辺を掘り下げることで〈ヘンな風景〉が見えてくることも往々にしてあるのだ。

ヘンな話、ヘンな出来事、ヘンな人々——。
世の中には想像以上に〈ヘン〉が溢れている。

次回からは僕が取材の中で出会った〈ヘンな風景〉を皆さまにお届けする。
少しでも皆さまに楽しんでもらえるのであれば幸いである。

クダマツヒロシ
兵庫県神戸市出身。
幼少期から現在に至るまで怪談蒐集をライフワークとしている。
2021年に怪談語りと執筆活動を開始。23年に怪談マンスリーコンテスト「瞬殺怪談」企画にて、平山賞・黒木賞をW受賞し商業誌デビュー。24年、初の単著「令和怪談集 恐の胎動」刊行。

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