「行方不明展」レポート

モダンな店が軒を連ねる東京日本橋に突如現れる巨大なポスター。一見爽やかな色味ながらよくよく見ると不穏なメインビジュアルが刷られ、ポスター越しの窓からはおびただしい数の行方不明者捜索のチラシが覗く。
そんな不穏さに満ちた空間に連日若者が押し寄せ、異様な熱気に包まれているのが、7月19日より開催中の「行方不明展」である。
昨年、SNSで話題を呼んだ考察型展覧会「その怪文書を読みましたか」(以下、「怪文書展」)を手掛けた気鋭のホラー作家・梨氏と株式会社闇が、「このテープもってないですか?」「祓除」「イシナガキクエを探しています」などの話題作を送り出した大森時生氏をプロデューサーに迎え作り上げた、完全新作の展覧会だ。
開催発表と共にそのタイトルが反響を呼んだが、いざ開幕してみれば連日の大盛況となり、既に3万人が来場する夏のビッグイベントとなっている。
「※この展示はフィクションです」
そう一番最初に明示されるこの展覧会がなぜこんなにも人を惹きつけるのか——その魅力の謎に迫っていく。
(インタビュー・写真●怪談ガタリー編集部)

展示室は4つのゾーンに分かれている。

まず最初に出会うのは1階フロアの「身元不明 『ひと』の行方不明」。
薄れる記憶を頼りに必死に誰かを探そうとする張り紙、時が止まったような薄汚れた電話ボックス、携帯電話の山、持ち主不明の吸い殻の詰まったペットボトル。それらの圧倒的な存在感に目を奪われながら、なぜか懐かしく思えてしまう町内放送が繰り返し耳に響く。五感からの刺激が居たはずの居なくなった「ひと」をぼんやりと浮かび上がらせる。

展示はシームレスに「所在不明 『場所』の行方不明」へと続く。

使用済みのこっくりさん、部屋を覆い尽くすようにうず高く盛られた土の山、異世界エレベーターの記録映像、トイレに置かれた子供用プールの淀んだ水、観光地にあるような古びた望遠鏡、そして、どこかの景色が入っていたはずの空の写真立て。
私たちの世界からは観測できない「あるはずの場所」、どこかに存在する「ここではない世界」。
その痕跡が濃厚に匂い立つ。

このように、地上階は周囲から観測された「行方不明」が提示されるが、展示会場が地下に潜っていくにつれ、行方不明という現象そのものへの深度を増していく。

地下フロアに降りるとまず「出所不明 『もの』の行方不明」の展示が目の前に広がる。
今回の展示は基本的に全てに手を触れても良いということで香水瓶を手に取ったのだが、匂いを嗅いだ瞬間母の化粧台の記憶が蘇って、何ともいえない郷愁を覚えた。他にも、土まみれの人形、黄ばんだ枕、樹海に残された看板や手紙など、持ち主達の痕跡が色濃く残る「もの」が並ぶ。

それらによって、段々とこの世界で起こっている「行方不明」という現象が明らかになっていき、そして、物語は最終章の「真偽不明 『記憶』の行方不明」にたどり着く。

ここでは詳細は伏せるが、抜けないトゲを刺されたような「読後感」が胸に残った。

「ここではないどこかへ行きたい」
「今の自分の世界をリセットしてしまいたい」
誰しも一度はそう思ったことがあるのではないだろうか。

ただ、それが本当に救いに成り得るかはわからない。
「行方不明展」は、私たちにそれを気付かせ、自分の生きる世界をもう一度見つめ直すきっかけになるかもしれない。

「死を想え」がホラーの本質なら、これ以上ないホラー体験と言っても過言ではないだろう。

ところで、怪談を取材していると本当に「存在したはずの人が忽然と居なくなった」という話にかなり頻繁に出会う。

有り得ないようでいて、実はすぐそこかしこで起こっている現象なのかもしれない。

その上でこの展示を観ると——この中の一つが実は真実でもおかしくないんじゃないか——
そんな気がしてくるのだ。

「※この展示はフィクションです」
そう謳っている展示にも関わらず、である。

虚構が現実を侵食していく——この感覚こそが——人を——虜にする所以——なのか——もしれな——————

「行方不明展」 

会場:三越前福島ビル
住所:東京都中央区日本橋室町1-5-3 三越前福島ビル
※東京メトロ「三越前駅」徒歩2分
開催時間:2024年7月19日〜9月1日 11時〜20時 ※最終入場は閉館30分前
※観覧の所要時間は約90分となります。
料金:2,200円(税込)
主催:株式会社闇・株式会社テレビ東京・株式会社ローソンエンタテインメント
WEBサイト:行方不明展
X(旧Twitter)アカウント:行方不明展@yukuefumeiten

行方不明展 特別配信映像「正体不明」
配信開始日時:2024年8月9日(金)よる8時00分 ※アーカイブあり
金額:1000円(税込)
配信はこちら!

オカルト情報全般はリニューアルした『TOCANA(トカナ)』でもお楽しみください!

関連記事

TOP