「呪物」という言葉を世に広め、一大ムーブメントを巻き起こした呪物のコレクション展「祝祭の呪物展」(以下、呪物展)。
年々動員数を増やし、満を持して3回目の開催を迎えたこのイベントだが、そこに懸けた想い、今後の展開などについて、名誉顧問のApsu Shuseiさんに話を伺った。
(インタビュー・写真●怪談ガタリー編集部)
東京タワーでの開催
——Apsuさんにまず伺いたいのは、会場についてです。今回東京タワーというロケーションを選んだのは、どういった理由からなのでしょうか?
「戦後の日本の経済が発展していく中で、東京タワーは象徴であり続けたと思うんです。ずっとね。そういった土地で、改めて『呪物を祝いたい』という想いがありました」
——ある意味、東京タワーそのものが呪物と言えるかもしれません。
「そうですね。すごく力がこもった場所だと思うので、そこで呪物展ができるというのが楽しみで仕方がなかったです」
——会場の選定はスムーズに決まったのですか?
「開催場所にはいくつも候補があって、その中から東京タワーに決まりました。会場として重要なのは、呪物との相性が良いかどうか。だから呪物コレクターの田俊行さんと、企画・デザインをしてくれているアシタノホラーのチーム全体でよく話し合いましたよ。あとは純粋に『ここでやったらおもろいな』と思ったからですね(笑)」
——会場のアートディレクションなどは主催のアシタノホラーさんが全面的に行ったと思うのですが、その中でApsuさんは総合的な監修をされたと思います。具体的にはどのようなことに力を入れましたか?
「個人的に掲げているのは『呪物ファースト』という言葉なんです。まず呪物ありきで、いかに『呪物を気持ち良く祝ってもらえる環境を作れるか』にこだわりました。あとは、来場者に呪物のことをどれだけ知ってもらえるか、ですね」
——ひとことで呪物と言っても、その言葉だけでは表現できないくらいの奥深さがあると思います。ある種、アートに近いような部分もあるのではないでしょうか?
「そうですね。ただし一部の呪物には『アート』という目線を付加されたことによって、略奪されてきた歴史があります。そういった背景も強く伝えたいと思いました。だから今回は、より民俗学的なことであったり、文化的な風習であったり、内戦、紛争などの歴史的な事実なども解説しています」
強力なパートナーたち
——入り口のステートメントはApsuさんが書いたのですか?
「ステートメントは僕が書いています。呪物の解説は田中さんと僕。そして伊藤亜和さんという文筆家の方が協力してくれていて、テキストやキャッチコピーなどの面で力を貸してくれました。図録の製作も一緒にやっています」
——伊藤さんは呪物に造詣が深い方なのですね。
「伊藤さんは呪物に関する卒業論文を書いていたこともあって理解が深く、今回のテーマの下地にも伊藤さんから受けた影響があって、とても頼りになります」
——実際に展示を拝見して、それぞれの呪物に詳細でわかりやすい解説文が付いていたことが印象的でした。
「資料や論文を読み漁りました。呪物はサイドストーリーと一緒になることで、より面白くなると思いますからね」
——販売されていた図鑑も読み応えがありました。
「今回は呪物の図鑑を出せたことが大きかったですね。研究者の方からも高評価なので安心しています」
——他に印象に残ったことと言えば、会場内で流れている音楽です。
「音楽を担当したのが冥丁さんというアーティストで、世界的に注目されているアンビエントミュージシャンです。去年、冥丁さんのツアーで共演させてもらってから、めちゃくちゃ気が合って、それからほぼ毎日LINEでやり取りをしています」
——Apsuさんとフィーリングが合う方だったのですね。
「音楽観はもちろん、呪物に対する想い、怪談に対する想いが非常にマッチしたと感じています。まさに『呪物に寄り添う音楽』ですね。だから、2人でこの展示会を作れたという達成感がとても強いです」
ステートメントに込めた想い
——先ほども少し触れましたが、各呪物のステートメントにも強いこだわりを感じました。
「呪物が置かれている状況、つまり誰に所有権があるのか、どう願われていたのか、背景にどんな物語があったのか……。それを明確に伝えたかったんです。だからステートメントを読んでもらえたら、今までとは違うなと思ってもらえるんじゃないかと」
——まさに入り口のステートメントにあった“奪われた物語を甦らせる”という言葉ですね。
「そうです。そして次への布石はもう打っていて、田中さん、はやせ君(都市ボーイズ)とも様々なことを話し合っています」
——日本において呪物というものが物凄くキャッチーなものになった昨今、そこにはポジティブな面とネガティブな面があると思います。そんな中で「呪物展」はまさにオリジンだと思うのですが、呪物を取り巻く現状をApsuさんに伺いたいと思いまして。
「まず、呪物がどう思っているかを知りたいですよね(笑)」
——確かに(笑)。実は「未確認の会」という団体がありまして、「本物の怪文書と本物の呪物展」という展示会を行ったんですよ。それを拝見して、展示物に対する真摯な想いがとても印象に残りました。
「そのような動きもあったのですね。とても気になります」
——それ以外でも、テレビをはじめとした多種多様なメディアに呪物が取り上げられていますが、そういった状況についてはどう思われますか?
「そもそもの前提として、他の国で呪物は日用品というか、当たり前の物だったりするんですよね。僕はそういった人たちの生活、現状を呪物を通して知ってもらいたいと思っていて。呪物を『ただ怖い物』として見せたくないんですよ。否定でも肯定でもなく、『それがあった』ということを受け入れてもらうことがすごく大事だと思っています」
——呪物に対するリスペクトを忘れない、ということですね。
「呪物は色々なところに否定され、奪われてきた物なんです。それを再び甦らせて多くの人に見てもらえる、そんな場って最高じゃないですか」
——3回目を迎えた「呪物展」は、本当に多くの人が呪物に触れることができる場になりましたものね。
「1000人に1人でもいいんです。何かを感じ取ってもらえれば。『かっこいい』とか『かわいい』とか『怖い』とか、そういう感情もいいんです。それが、主催側の想いとの共有につながりますからね」
「呪物展」のこれまで、そこから誕生したもの
——3年前の「呪物展」のスタートは、Apsuさんの中でどういった位置付けですか?
「確かにターニングポイントではありましたね。ただし呪物を取り巻く環境が現在のようになる、ということは想定内でした」
——1回目の「呪物展」(2022年日本橋BnA_Wall開催)は物凄い反響でしたよね。そして2回目(2023年澁谷藝術開催)は1回目を上回る動員数でした。
「実を言うと、その頃のことをあまり覚えてないんですよ(笑)。忙し過ぎて……。ただ、あれを乗り越えたことでチームの結束力はとても強くなりましたね。だからターニングポイントという意味であれば、僕と田中さん、早瀬さんの呪物に対する想いを共有できたり、違いを理解できたことが大きかった」
——現在はApsuさん、田中さん、はやせさんにやついいちろうさんが加わり、「怪異研」としても活動されていますよね。
「『怪異研』の4人が揃ったのは1回目の『呪物展』でしたし、そこから生まれた企画、イベントは凄く多いと思います。もちろん、我々以外の流れも各地で発生しましたよね。良いイベントはそこから何かが誕生する。1回目の『呪物展』はそれができたんです」
——まさに現在まで続く大きな流れが生まれたわけですね。「怪異研」さんとしても、どんどん活動の幅を広げている印象があります。
「元々活動の幅が広い人間の集まりですからね。そもそも『怪異研』は、メンバーのみんなが忙し過ぎて疲れていたときに『自分たちが行きたいところ、食べたい物がある場所に行こっか』みたいなノリでスタートしているんですよ。だから面白いです。日本全国で、僕とやついさん共通の知り合いがいたりとか(笑)」
Apsuさん自身について
——Apsuさんはあまり表舞台に立たないイメージがあります。裏側で本質をデザインするというか……。そういった意味でも「呪物展」や「怪異研」は貴重な場ではないでしょうか。
「僕はそこまで表舞台に立つのが好きではないんです。表舞台に立って人に『観測』されることによって、『Apsu』というものが変わってしまう気がするんですよ。芸術って『観測』、つまり人に見られることで対話していくものなのですが、それを良い方向に持っていける人とそうでない人がいる。僕の場合は後者で、まだ前者のレベルに達していない。みんなが思い描く『Apsu』になろうとしてしまうんですよね。でも、それでは自分が本当にやりたいことができない。だからもっと、子供の頃思い描いていたような純粋な環境で物作りしたいなと。そういった理由で、あまり表舞台に立たないようにしています」
——Apsuさんが怪談を好きになったきっかけは何でしょうか?
「子供の頃から家にあった幻想文学の本をよく読んでいましたし、山で動物たちと遊んでいたりしたんです。きっと他人とは違う目線で物事を見ていたんですが、少しずつ自分が当たり前だと思っていたことが当たり前じゃないということに気付いたんですよ。そこに怖さを感じましたね。でも、そこに好奇心も覚えたんです。『自身と世界の乖離』というか……。そこにある種の物語性を感じて興味を持ちました」
——そういった経験が影響したわけですね。
「それと幼少期からずっと迷路を書いていたんですよ。『迷う』ということが好きだったんですね。そういったこともあり、人が迷う物語が好きだったんで、それが怪談というジャンルとマッチしたんだと思います」
——現在はどういう怪談を蒐集されていますか?
「最近は内戦・紛争地帯の普段語られることがないような海外の怪談を、その背景を含めて語っています」
——今回の「呪物展」のステートメントやテーマに通じる部分がありますね。
「それと今は、怪談と何かのミックスカルチャーに興味があります。特に『怪談と音楽』というものに興味がありますし、仕掛けていきたいと思っています。僕は音楽をやっていたので、ある種の原点回帰かもしれませんね」
——最近は「怪のニュー」をほぼ定期的に開催されていますよね。
「昔の怪談会のような場を作りたかったんです。気軽にみんなで怪談を語り合える場ですよね。ある意味、実家に帰るような安心感があります」
「呪物展」のこれから
——今後の「呪物展」について、展望などお聞かせ頂けたら。
「『呪物展』は3部構成で考えてます。『祝祭』から始まって『日常』、そして『開放』に繋がるストーリーですね」
——そうなると、次のフェーズは「日常の呪物展」ですか。
「呪物たちの日常、つまり元々祀られていた状況を再現したいなと。呪物の力が最も強まるのは、実際に祀られていた状況だったり、儀式の状況なんです。現地の人たちがどのように扱っていたかを、映像などを含めて紹介するイメージですね」
——そして「解放の呪物展」に向かうわけですね。
「『解放』は、それぞれの呪物観を表現する場、表現と呪物が共存する場です。今回も様々な作家さんやアーティストさんが関わってくれていますが、それは『解放』への前哨戦だと思っています。絵やデザインだけでなく、音楽もそうですね」
——壮大な展開を目論んでいるのですね。
「だから3回の『祝祭の呪物展』には、至る所に『日常』と『解放』の伏線が張ってあるんですよ。それも見つけて楽しんでもらえたらと思います」
——Apsuさん、本日はお忙しいところありがとうございました。
「ありがとうございました」
「祝祭の呪物展」は8月3日(土)まで開催。
東京タワー3Fのタワーギャラリーで、約40点の呪物があなたを待っている。
呪物のコレクション展「祝祭の呪物展」2024
〈祝祭の呪物展 in 東京〉
【東京】2024年7月17日(水)から8月3日(土) 11:00〜19:00 (19:00最終入場)
〈場所:東京タワー 3F タワーギャラリー〉
日時指定電子チケット:1,300円(特典ステッカー付き)
呪物のコレクション展「祝祭の呪物展」2024 ツアーガイド
【日程】7/19,7/20,7/25,8/2
【時間】19:30集合
チケット代:3,000円(+入場料)
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※開催日当日は、日時指定電子チケットをご購入済みのお客様を優先的にご案内いたします。
※日時指定電子チケットをご購入のお客様は指定の日時にお越しください。
※当日券はいつでも会場入り口にてご購入いただけますが、混雑状況に応じて販売を締め切らせていただく場合がございます。
※小学生以下は入場料無料。
※入場の際にお札チケットと特典のステッカーをお渡しいたします。
※〈リピート特典〉2回目のご来場のお客様はお札チケットのご提示で500円で入場可。(1回のみ有効)
〈 祝祭の呪物展 in SAPPORO 〉
【札幌】2024年8月10日(土)から8月25日(日) 10:00〜20:00
〈場所:札幌PARCO 7F スペース7〉
前売りチケット:1,000円 / 当日チケット:1,200円
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※チケットに関する詳細、注意事項はチケット販売ページをご覧ください。