怪談をきくと自分の体験も話したくなるのはなぜ?「銀座一丁目怪談」で考えてみた。

ホームタウン主催怪談イベント銀座一丁目怪談奥野ビル306

初めて「怪談イベント」なるものを知って1年足らず、両手で数えるほどしか行ったことがない、未だに参加ハードルの高さを感じてしまう筆者の怪談イベントレポ第2弾です。
今日は私がそんなわずかな体験の中ですら思うことをまずお伝えしたいのですが……それは、
「自分の身に起きた不思議なこともきいてほしい!」
ということです。
今まで自分はそんな不思議な体験、怖い体験とはまったく無縁に生きてきたはずなのに。
そう思う自分に自分で戸惑っている今日この頃です。
ただ、初めて怪談師さんから怪談をきいた友人も全く同じようなことを話していまして……どうやらこれは割と多くの人に共通する感覚のようです。
そして、そんな気持ちになった方におすすめしたい!と思ったのが、本日ご紹介する「銀座一丁目怪談」です。
今回は私が2024年3月開催時に参加した時のことを振り返りつつ、このイベントならではの魅力と「怪談をきくと自分の体験も話したくなる」謎に迫りたいと思います。

「銀座一丁目怪談」とは?

「銀座一丁目怪談」とは一言で言うと、銀座アパートで美容室を経営して100歳まで暮らしたという方のお部屋を真っ暗にして怪談を語り合う会です。
主催はホームタウンさんで、不定期ながら月1回開催されているとのこと。
イベント告知ページには下記のようにあります。

「銀座アパート」(現:奥野ビル)は1932年竣工しました。
それから間もなく一人の女性が入居し美容室を開業します。
彼女の名前は須田芳子さん。
1909年に秋田県角館で生まれ、おしゃれでモテてビール好き。
奥野ビルの一室で、須田さんは馴染みのお客さんを中心にカットをしていました。
開戦、終戦、戦後の復興を経験し、昭和60年代に廃業。
その後美容室は住居として利用し、2009年100歳を迎えた直後に逝去されました。
そんな須田さんの部屋を「維持」するプロジェクトの一環として、銀座一丁目怪談を立ち上げます。
(略)
収集した怪談と体験者の思いを、須田さんの人生とともに紡いでいけたらと思っております。

なんとも、そそる紹介文じゃないですか?
初めてお誘いいただいた時、このテキストを読んで、どちらかというと怪談が語られる銀座の奥野ビルという「場」に興味が沸いて、仕事終わりにお伺いすることにしました。

真っ暗な空間でぎゅっと輪になって座る参加者たち

少し仕事に手間取り、数分遅れてその「奥野ビル」に到着。

ここかー。

銀座にはよく行きますが、この趣深いビルのことを、全く存じ上げませんでした。
エレベーターは今にも止まりそうな古めかしさだったので、階段で3階へ。

え、ここ!?

「銀座一丁目怪談」というペライチが貼ってある306号室の前に到着。人の声が漏れ聞こえる小さな扉はとてつもなく入りづらい。

けれど既に遅刻している身、躊躇している場合ではありません。
おそるおそるその扉を開けるとすぐ玄関のような空間があり、キャンドルのような心もとない間接照明のみの真っ暗な部屋に大きな黒い人影。その奥にこちらを見つめるたくさんの目。

大きな黒い人影は、主催者のホームタウンさんでした。
ホームタウンさん、基本的に気さくな方なのですが、背が高く、独創的な服装をしていることが多いので、暗闇で突然目の前に現れると、なかなかの迫力があります。

「どうぞ空いているお好きなお席へ」

と、通されたお部屋は6畳間くらいだったでしょうか。
丸椅子やら小さいソファ的なものやらが置いてあって、ぎゅっと輪になるように、6~7人の女性が腰かけていました。私は空いている丸椅子の一つに腰を下ろしました。

怪談イベントに数えるほどしか行ったことがないので何がスタンダードかはわかりませんが、少なくとも「輪になって座る」というのは過去にありませんでした。

いわゆるイベント会場ではなく、元マンションの一室なので天井も低く、(実際そのとおりなのですが)誰かのおうちにお邪魔したみたいな感覚です。

なんだろう、この感じ。
怪談イベントというよりは、怪談サークルに体験入部したみたいな。

つまりこのイベントは、怪談師さんから一方的に話をきくのではなく、一般の参加者もシェアしたい話があれば自由に発言できるスタイルの、インタラクティブな怪談会だったんです。

次々うつりかわるトピック。次々語られる不思議な話。

「僕からも話しますがぜひみなさんも、明らかな怖い話、じゃなくとも、少し不思議な体験などがあったら、是非お気軽にお話いただければと思います」

ホームタウンさんがそんな感じで声をかけると、輪の中にいた1人の女性が手を挙げました。

「あの、私、いいですか?」
「どうぞどうぞ」
とホームタウンさんが気さくに返して、話を促します。

おお、始まった。本当に参加型なんだ。
私は内心とてもドキドキしていました。

そこから「●●といえば、ちょっと話はズレるのですがこういうことがあって……」といった具合に、どんどんうつりかわるトピック。

・事故に遭う瞬間に身体に起きる不思議な感覚の話
・小学生の頃に体験した珍事件
・コンビニ、アパレル……その職業ならではの不思議な体験
・お手洗いやフリーアドレス席など職場にまつわる怖い話
・病院や銭湯など場所にまつわる不思議な出来事
・夢だけどもしかしたら夢じゃない不思議な経験

など、出てくる出てくる、枚挙にいとまがないほどのたくさんのお話。
最初はほぼ初対面同士で、遠慮深い雰囲気だったものの、だんだんと打ち解けていき、終盤にはホームタウンさんが怪談を話す隙もないくらいに、次々と怖い話、不思議な話が飛び出してくるようになります。

「えーーこわーい」
と悲鳴をあげたり、リアクションをしたりする人も出てきます。

怖い体験をシェアすると距離が近づく説

とはいえ、怪談イベント初心者の私がもしこの話をきいたら、
「逆に距離が近すぎて気まずくないの?」
「みんな常連さんで怪談イベント初心者のハードルは高いんじゃないの?」
と疑っていたと思うのですが、とてもフレンドリーな空間なのがすごいんです。

休憩時間だけは電気をつけて、ほっと一息。
その際に驚いたのは、「どうぞ」と参加者の1人がお菓子を配っていたことです。
おそらく過去にもこの怪談会に参加したことのある方なのでしょう。空気をよくするための配慮が行き届いています。

昔、社会学の授業で「自己開示」すると信頼関係が構築しやすくなると習いましたが、私は怖い体験、不思議な体験をシェアするのって特にその効果が得やすいんじゃないかと、最近思っています。

もちろん今回の場合、参加者のみなさまがもともと温かく優しい方々だったというのもあると思うのです。が、そういった体験を語り合うことで親密度が開始時点より増していたんじゃないかと。

だって、あまり周りに話してこなかった、ともすると秘密にしていた体験を打ち明けるわけじゃないですか。
これって究極の自己開示の一種じゃないかと。

何が言いたいかというと、「銀座一丁目怪談」は初めて1人で参加したとしても、あっという間に空間になじむことができるということです。
(私は人見知りなので怪い話をいきなり手を挙げて発言するなんて大胆なことはできてないのですが、それでもお菓子をもらって、その場にいる人と軽く会話などできたので、少し社交性があれば絶対に大丈夫のはずです!)

時空を超えて須田さんとも魂のつながりを感じる場

加えて、「場の力」もやはり大きかったと振り返ってみて思います。

真っ暗な部屋で少人数で丸くなって座ることもそうですが、かつて人が暮らしていた、文字通り「アットホーム」な空間で語り合うというのは、会議室みたいなところよりも、ずっと話しやすい気安さがありました。

また、見回すと、生活感の残る壁や棚などの家具があるこのリアリティ。
ここで暮らしていたという須田さんは、寝る前にこの天井を見つめながら何を考えていたんだろう。私は時折、防音性の低い窓や壁から入り込んでくる、銀座の喧騒の音に耳を澄ましながら、そんなことに思いを馳せていました。
時空を超えて魂のつながりを感じ、そこからさまざまな着想が浮かんできます。

今はもうここにはいない須田さんもこの怪談会の一員で、語られるお話はある種の鎮魂歌のようにも感じられました。

秘めてきた体験を打ち明けることは一種の癒しなのかもしれない

冒頭の「怪談をきくと自分の体験も話したくなるのはなぜ?」という話に戻るのですが。

結局、明確な答えはわかりません。

ただ、一つ思うのは、私たちは普段、こういった体験を社会常識の基準に照らして「なかったこと」にしてしまっているんじゃないかということ。
だってそんな話をしたら変な人だと思われるし、怖い体験なのだとしたら1人で抱え続けているのは精神衛生上よくないから。「勘違いだ、忘れよう」と思う方が絶対にいいはずです。

けれど、もしその体験を抱え込まずに誰かとシェアできるのなら、大切な経験として受け止めてもらえたり、適切な解釈をしてもらえるのだとしたら、それは救いや癒しになるのではないでしょうか。

特に今回のような、着想の広がる空間にいたり、さまざまな怪談をきいたりしていると、ずっと閉じていた心の扉が開いて、「なかったこと」にしていた記憶が突然蘇るのかもしれません。

とはいえ、いざ話したくなっても、なかなか怪談師さんに突然DMしたり、イベント終わりに声をかけたりして、「話をきいてほしいです」とは言いづらいんですよね。それはそれでぜひやったらいいことだとも思うのですが。

そんな時に気軽に自分の体験をシェアできるのが「銀座一丁目怪談」、というわけです。

「そうだ、怪談ライブに行こう」と思った初心者さんに

この記事は、私と同じように怪談ライブにほとんど行ったことがない方に向けて、初心者視点でテーマを決めて怪談ライブレポとしてまとめています。

「一方的に怪談をきくよりも自分も怖い体験をシェアできちゃう方がむしろ初心者さんも楽しいこともあるのでは?」と思い、「銀座一丁目怪談」をご紹介しました。

「銀座一丁目怪談」がいつ開催か気になる人は、是非怪談ガタリーの【話題のイベント】、または、ホームタウンさんのイベントまとめページ(lit.link)をチェックしてみてください。

なお、次回銀座一丁目怪談は7/10(水)開催との事です。銀座一丁目怪談(7/10)

そして、今後も少しでも「怪談ライブを見に行きたいけれど、私が行っていいものなのかな」と思う方のハードルを下げていきたい所存です。

もしよろしければ「こんな観点も初心者の方に伝えたい」「この怪談師さんのイベントも初心者におすすめ!」といった情報も感想とともに教えていただけたら、今後の記事執筆の励みになり、とてもうれしく思います。

Kana
2023年初めて怪談ライブに行き、本職での10年以上の広報経験から多くの人にその魅力を広めたくなってコラムを始める。
はじめての怪談レポートはこちら
雑談系Podcast「誤り続けるオンナたち」配信中。
「ぽんのうず」でホラーゲーム制作にも挑戦。

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