動物怪談

自身の体験談を語る怪談師は決して多くない。その殆どは実際に怪異を体験した体験者から取材をし、聞き集めたお話を再構成して披露している。つまり取材こそが怪談師の命なのだ。我々怪談ガタリー編集部では、この取材という行為にフォーカスした企画を考えた。怪談師にお題を与えて、そのお題に則した怪談を取材をしてきて貰うのだ。
題して……怪談、聞いて来てもらえます?

さて、今回我々がチャレンジャーに選んだのはこの方——。

臨床心理士で怪談師の佐伯つばささん。

ここからは、佐伯さんの視点でお楽しみ下さい——。

動物怪談

「おめでとうございます!」
来た。
当然知っている——噂によればこの後の会話は成り立たないらしい。
一応、コミュニケーションを試みることにした。
「あの、結構予定が詰まっていて……期限とかによりますけど」
「佐伯さんって動物好きでしたよね?」
やはり無駄だった——編集長を名乗る男の目には光がない。
しかし、この一言を聞いて僕は勝利を確信した。
落ち武者や座敷童を調査している前例からすると、今回は王道の動物に関する怪異、おそらく狸や狐の怪異を蒐集することが目的であろう。
それに関しては既に持っている。
取材の名目で適当に遊び、経費精算し、最終的には自分の持っている怪談を提出すればよい。
たしか綺麗な女性のいるお店に取材へ行った者もいたはずだ。
「動物は好きですけど……でも好きって言っても……」
企てを悟られぬよう、言葉に戸惑いと不安の色を混ぜる。
「確か犬が好きなんですよね?」
「犬は大好きです」
「猫はどうですか?」
問題ない——化け猫の怪談も持っている。
「飼ったことはないですけど、猫も大好きです」
「そうですか……」
沈黙が流れる。
なぜ——急に黙り込むのだろうか?
不気味な硬直の後、男はマネキンのような笑顔で言った。
「それでは、佐伯さんには十二支全ての怪談を集めてきて貰いたいと思います
——聞き間違えたのだろう。
「なんの怪談ですか?」
「十二支です。ね、うし、とら、う、たつ……」
「十二支は知ってます、全部って……十二話集めるってことですか?」
会話をしながら頭の中で怪談リストに検索を掛ける。
僕がすでに持っているのは【鼠・龍・蛇・猿・犬】の五種類。
残り七話も集めなければならない。
「十二話集めてください! 既に配信などで披露されているものがあれば、それはカウントします。あ、酉はニワトリじゃなくていいですよ
そんな些細な事はどうでも良い。
「ちょっと僕だけ厳しすぎませんか?」
「……」
「冗談ですよね?」
「……」
どうやら本気らしい。
噂ではこうなってしまったが最後、怪談を蒐集する以外にこの者たちから逃れる術はないとされている。
僕も沈黙で応戦してみたが、その空間だけが切り取られたように不自然な静寂が続くだけだった。
仕方がない——幸いなことにニワトリ以外でも良いのであれば、鳥に纏わる怪談は持っているので、残り六話と言うことになる。
「集めるしかないか。虎と言えば……やっぱりタイまでいくしかないか。せっかくだし海外の話しで集めようかな。経費で賄ってもらえるだろうし」
せめてもの仕返しに、僕は大きな独り言を発しながらその場を後にした。

鼠と鳥と龍

まず取材前に聞いたことがある怪談をまとめることから始めた。
六種の動物が登場する怪談のうち、蛇と猿、犬の三つについては配信媒体で視聴できるので、今回は鼠と鳥、龍についての怪談のまとめることにした。

【鼠の怪談】

戸田さんが子どもの頃、祖母の家にネズミ捕りが置いてあった。
祖母の家は確かに築年数もかなりのものだったが、さすがにネズミがうろついているところは見たことがない。
祖母からは「危ないから」と触れることを禁じられていたが、動物を殺める道具に触るつもりなど毛頭なかった。

戸田さんが中学生になる頃、そのネズミ捕りについてある違和感を抱いたという。
 
詳しいことは知らないが、ネズミ捕りの構造を考えるとこれは罠として機能していないのではないか?
おそらく金属板を上部にセットしておかなければネズミを捕らえることはできない。
このままでは真ん中の餌に触れても罠は作動しないであろう。
気になった戸田さんは祖母に尋ねた。
「このネズミ捕りって鉄の部分上にもっていかないと意味ないんじゃない?」
「ん? そんなことしたら危ないじゃない。誰かが踏んだりしたら大変よ」
では何のために置いているのだろうか?
「それは置いておくだけでいいのよ」
「なんで?」
「昔家に大きなネズミが出たことがあって、みんな齧られて大変だったのよ。でもそれを置いてからはネズミが出なくなったから」
そういうと祖母はズボンの裾をたくし上げ、ふくらはぎを指さした。
ふくらはぎの上部には薄い傷跡が残っていた。
「もう何十年も前の話しだけど……」
そういうと祖母は当時の出来事を面白おかしく話してくれた。
しかし、戸田さんはその思い出話の内容をほとんど憶えていないという。

祖母の足にあった傷跡。
その大きさは明らかに小動物の物ではなかった。

祖母の足に嚙みついていたのは本当にネズミだったのだろうか?

【鳥の怪談】

なぜ僕だけこんな目に合わなければならないのだろう?
同級生は「あの曲がかっこいい」「あいつは佐藤に告白したらしい」と中学生らしい話で盛り上がっている。
誰も「おばあちゃんと弟が同じ日に死んだ」「母親に聞いたこともない病気が見つかって、足が動かなくなるかもしれない」などとは話していない。
同級生のほとんどは僕の境遇を知ってか、話しかけてくることはなかった。
当然だ。
僕もどんな話をしたらよいのかわからない。
どのような話題であっても最後には「なんで僕だけ」と言う言葉が漏れてしまうだろう。
そんな悲観的な考えを変えてくれたのは、3年生の時に同じクラスになった杉山圭太であった。
杉山はいつも明るく、誰とでも分け隔てなく話す奴だった。
しかし、杉山と話す同級生の顔はどこか憐れみを含んでいるように感じられる。
その表情の理由は、声を掛けられ杉山と二人で帰宅する際に知ることとなった。

「なんでいつも一人でいるの?」
いつもの明るい笑顔で無遠慮に聞いてくる。
「なんとなく」
「呪われてるから?」
一瞬、僕と杉山の周りだけ時間が切り取られたように静寂に包まれた。
杉山は真っ直ぐに僕を見ている。
「僕、皆にそんな風に言われているの?」
「いや、そんなことないよ。大変なことがあったっていうのは聞いたけど」
呪い。
そんな風に考えたことはなかった。
どれだけ不幸が続こうとも子供じみた理由を持つことはしたくない。
僕が否定をしようと顔を挙げた瞬間、それを遮るように杉山が言った。
「俺は思ってるよ。自分は呪われてるって」
予想外の返答に、一度言葉になりかけた否定が頭の中へ引き返していく。
杉山の表情に初めて影が差したような気がした。
「なんでそんなふうに思っているの?」
すると杉山は直ぐに笑顔を取り戻し、快活な口調で言った。
「親父が死んだ次の日におじいちゃんが死んで、その次の日に飼ってた犬が死んだんだよ。その時はいつ自分の番かなってめちゃくちゃ怖かったし」
さらに続ける。
「あと去年は人身事故と交通事故を3回くらい見ちゃってるし。こんなの絶対呪われてるだろ」
壮絶な出来事を次々と言葉にしながらも、杉山の笑顔は崩れなかった。
どのように答えてよいかわからず、気が付くと僕も自分の身に起こった不幸を全て吐き出していた。
「ほら、やっぱり呪われてんじゃん。呪われ仲間だな」
全てを聞いた杉山が少し嬉しそうに言った。
「いや、呪いじゃないって。誰かに呪われるようなことしてないし」
僕は否定をしながらも、少し晴れやかな気分になっていた。
呪われ仲間だとしても、こうして話ができる友人ができたことが嬉しかった。
「じゃあ、また明日な」
地下鉄の駅に着くと、杉山は手を振りながら下り線のホームへ向かって行った。
僕も返事をしながらふと電光掲示板に目を向けると、当然のように上下線とも人身事故の影響で電車が止まっていた。

その日以来、僕と杉山は一緒に行動することが多くなった。
暗い過去を持つ者同士、無理をしなくても良いことが互いに心地よかったのだと思う。
その後も僕の周りでは変わらず不幸が多かったし、杉山も数回葬式で学校を休んでいた。
しかし、そのたびに学校の近くにある公園へ行き、呪いかどうかの言い合いをして笑いに変えていた。
そうすることで何とか気持ちを保っていたのだと思う。
ある日、いつものように公園で話をしていた。
その時は誰が亡くなったのか、事故を目撃したのかは覚えていない。
公園にいたということは何かしら不幸なことがあったのだろう。
最初に気が付いたのは僕だった。
座っているベンチの反対側にある茂みが揺れ、そこから大きな鳥が姿を現した。
カラスより一回りも二回りも大きなその鳥は、ペンキをかぶせた様な赤い色をしている。
杉山もすぐに気が付いたようで、その派手な見た目と大きさに興奮していた。
「あれ絶対新種の鳥だろ! あんなにでかい鳥見たことないぞ」
赤い鳥は悠然と公園の真ん中まで歩みを進めると、真っ黒な眼を僕たち二人に向けた。
どれほどその眼を見つめていただろうか?
突然赤い鳥は、大きな鳴き声を上げて飛び去って行った。
その美しさと迫力に圧倒され、僕たちはしばらく何も話さなかった。
杉山は相当怖かったようで、わずかに震えているようにも見える。
その後は二人とも言葉を交わすことなく帰路についた。
 
「あの鳥見てから明らかに人が死ななくなったよな」
一緒に帰っていた杉山が空を見上げながら言った。
不思議なことにあの鳥を見た日から、僕と杉山が一緒に帰宅しても人身事故に巻き込まれることもなければ、身内が亡くなることもなかった。
「確かに。あれ幸せの鳥だったのかな」
杉山は意外そうな顔をこちらに向けた後、ぼそりと言った。
「あれが幸せの鳥? あんな不気味なのが? 俺はあいつが呪いの原因なんじゃないかって思ったけど。ようやく解放されたって言うか」
「鳥に呪われるってなんだよ。さすがにそれは意味不明だろ」
「でもあんな鳥見たことないじゃん。それにあの時の鳥の目がなんか俺を恨んでるように見えて……」
それっきり杉山も僕も、あの鳥について話すことはなくなった。
 
あの日から数十年。
僕は一度もあの鳥を見ていない。
しかし、一度だけあの鳥を見たという話を聞いた。
それは杉山の奥さんと娘の通夜だった。
大切な存在を同時に失った杉山にどのような顔をして会えばよいのか?
重い足を引きずって向かった寺で待っていたのは、引きつったような笑いを浮かべた杉山だった。
その異様な表情を見て、心が壊れてしまったのではないかと心配していた僕に杉山が言った。
「ちょっと前に娘が見たって言ってたんだよ。見たことのない大きな鳥を幼稚園で見たって。真っ赤な鳥だったって。その鳥飛んでどこかに行っちゃったんだって」
僕が何も言えずに固まっていると杉山は嬉しそうに言った。
「これでもう大丈夫だよな? 俺は死なないよな?」
その後、僕は逃げるように杉山のもとを後にした。
あの鳥が何だったのかはわからない。
だが、少なくとも杉山はあの鳥に憑りつかれている。
それがあの鳥のせいなのか、杉山自身の問題なのか、僕にはわからない。

【龍の怪談】

良平さんが住んでいた地域には、龍が住んでいるとされる霊山があった。
有名な山なので県外からも登山に訪れる人がいたそうだが、その様子を見た父親はいつも同じことを言っていた。
「あの山、今はもう何もいないのにな」

何度目かにこの言葉を聞いた時、良平さんは父親に聞いた。
「お父さん、龍見たことあるの?」
「あるよ」
「あるの? どんな感じだった? 大きかった? 龍って本当にいるの?」
良平さんは龍の存在が肯定されたことに興奮を覚えながら、矢継ぎ早に父親に問いかけた。
父親は笑顔で良平さんを見つめた後、幼少期の体験談を聞かせてくれた。

父親が小学生だったころ、学校から家までの道を歩いていると、急にあたりが暗くなったそうだ。
そのことに気が付いた時には雨が降り始めていた。
傘を持っていなかった父親は慌てて、近くにあった大木の下に潜り込み雨をやり過ごそうとしたところ、あっという間に雨が止んだ。
空を見上げると、上空には大きな円形の雲が広がっていた。
不思議なことにその雲の周りは青空が広がっており、先ほどの雨はあの雲の下にだけ降り注いでいるようだった。
雲は目に見える速度で移動している。
その光景に目を奪われていると、雲はある山の真上で停止した。
一つの山にだけ雨が降り注ぐ神秘的な光景だったという。
よく見ると雲の中で何かが動いている。
必死に目を凝らし、何が動いているのかを確かめようとしているうちに雲はゆっくりと高度を下げはじめ、山が笠を被っているように見えた。

「だから今はあっちの山に龍がいるんだよ」
父親は満足そうに笑っていたが、良平さんは少しがっかりしたという。
もっと壮大な龍の話を聞くことができるのではないかと期待していた良平さんにとっては、その神秘的な体験は少し物足りなく感じたそうだ。
局所的な雨が降っただけでは龍がいるとは思えない。
そんな感想を抱いた良平さんは長らくこの話を忘れていた。

良平さんがこの話を思い出したのは、それから何十年も立った時だった。
良平さんの友人が会社の倒産を機に姿をくらました。
理由が明白だったために皆心配したが、その気持ち虚しく最悪の結果を迎えることになってしまった。
友人は山の中で首を吊って亡くいるのが発見されたそうだ。
その山は父親が龍を見たと言うあの山だった。
良平さんは父親のもとを訪ねた際にこのことを話した。
「オヤジが龍を見たって言ってたあの山、あそこで見つかったんだよ」
「まあ、あの山には龍がいるからな」
この時、父親はどこか嬉しそうにそう言った。
「は? それ何か関係あるの?」
あまりの不謹慎さにやや語気が荒くなる。
「あの山、低いしそんなに険しくないだろ? でも俺が龍を見たあたりからものすごく人が死ぬんだよ」
何を言っているのだろう?
良平さんが何も答えずにいると、父親は焦ったように言葉を重ねた。
「本当だぞ。それまではほとんど人も入らなかったし、人が死ぬことなんてなかったんだよ。でも俺が龍を見た日からやけに人が死ぬんだ。だから俺が見たのは本当に龍だったんだよ」
その父親の必死な姿に、良平さんは言葉が出てこなかった。
あの山には何がいるのだろうか?
父親をここまで駆り立てる“龍”とは何なのだろうか?

これを残り六つ——おそらく現状のキャパシティーでは無理だ。
そもそも怪異体験と大きなくくりで聞いて、目当ての動物が現れる可能性など限りなくゼロに近い。
現に残り六種の動物たちは今まで出会ったことがないのだから。
考えるほどに実現不可能に思えてしまう。
そこで僕は個人的に目標を立てることを決めた。
まず、できる限り十二支を埋める努力はする——これはどのような方法でも良い。
そのうえで取材を敢行し、被っていようとも一つ十二支に当たればよい。
為すべきことが決まればそのあとは簡単だ——。

早速、他の怪談師を頼ることにした。

幅広い怪談を蒐集し、そのうえで怪談が興味深く、さらに言えば僕が甘えられる人物。
真っ先に思いついたのは、クダマツヒロシだった。
怪談師として様々なメディアに出演し、連日のイベント活動をこなしながら単著『恐の胎動』も執筆している。
あの敬愛すべき先輩であれば、面白い怪談を持っているに違いない。
そして僕が泣き付けば間違いなく助けてくれる。
下心だけを燃料に、クダマツヒロシに電話をかける。
「クダマツさん。今、ガタリーの原稿書いてるんですけど……」
「ガタリー? 大変やな。どんなテーマなん?」
「それが十二支の怪談を集めて来いって言うんです」
「十二支? まさか全部ちゃうよな?」
「そのまさかなんです……」
「それきついな。でも俺、猪の怪談聞いたことあるで」
「あの……その怪談ってお借り出来たりしますか?」
「おう、全然ええで。家族から聞いた話やから。今まとめるからちょっとまっててな」

【猪の怪談】

「干支信仰」
僕の奥さんのお母さんの話。
お母さん良く自分は干支に守られてるのよって、いうんです。
干支ってあの動物の? って聞くと、そうだと。
お母さんがそう思うようになったきっかけで、ある不思議な体験を聞かせてもらったんです。
まだお母さんが中学生だったころなんですけど、お母さん当時、神戸市内にあるマンションに住んでいたんです。
夜中ベッドで眠っていると、不意に金縛りにあったって言うんですよ。
お母さんそれまで金縛りの経験はなくって初めてだったそうで。
体は全く動かない。
その状態でなんとか動かそうともがいてると、突然足首を掴まれた感触があって、そのまま「グンッ」って下に引っ張られたっていうんです。
お母さんめちゃくちゃ怖くて。
「うわーやめてやめて!」ってもがくんですけどどんどん体が下へ『ぐっ!ぐっ!ぐっ!』って引っ張られる。
なんとか振り払おうとするんですけど体が動かなくって。
そうしてると突然、天井を見てる自分の視点が「パチッ」って切り替わったって言うんですよね。
ちょうど昔のTV、ブラウン管TVのチャンネルを切り替えたみたいに、今まで部屋の天井を見ていた自分が突然どこかの外の景色、夜景? のような景色を高いところから見ている視点になったって言うんです。

「えっ!」と思ったんですけど、その間も足首を強く掴まれている感覚はあるんですよね。
そうしてるとその見ている視点がゆっくり動くんですよね。
なんとなく分かったそうなんですけど、その景色、どこかの山の上から街の景色を見下ろしているような視点なんですよね。
その視点が「ズッズッ」って前に進むんです。
そのまま周りの景色がどんどんどんどん後ろに消えていくんですよね。
ちょうど車に乗ってスピードを出して走ると、景色がどんどん後ろに流れていくじゃないですか、あの感覚って聞いたんですけど。
でそのまま正面に見えてる街並みが大きく鮮明になって行くんです。
恐らく山を物凄い勢いで駆け下りて街へ真っすぐ向かってるって言うんですよね。
その街の景色がどんどん鮮明になってきて、そこでお母さん「あっ!」と思って。
その町、お母さんが今住んでいる街なんですよね。
そこで気づいたそうなんですけど、駆け下りてきた山っていうのが六甲山なんですよね恐らく。
それが自分のいるマンションを目掛けて、なにかが猛スピードで向かってきてるって言うんです。
そうしてると、街中を駆け抜けたその視点、お母さんが今いるマンションのお母さんの寝てるその部屋に飛び込んだって言うんです。
その瞬間、寝ているお母さんの真上を、大きな獣のようなものが飛び越えて行ったのが見えたって言うんですよね。
見た一瞬で分かったそうなんですけど、それ大きな猪やったって言うんですよね。
で、それが体を飛び越えた瞬間に今までの金縛りが弾けたように解けたって言うんです。
気づいたら足首を掴んでいた感覚もなくなってたって言うんですよね。
そんなことがあったと。
それ以来お母さん、自分の干支でもある猪にすごく感謝していて、なにか不思議な縁を感じてるって話をしてくれたんですよね。
なのでお母さん、猪にゆかりのある神社とかを良く回ってはるんです。

「じゃあ、頑張ってな」
爽やかに電話は切れた。
やはりあの先輩は頼りになる。
これで残り五種【牛・虎・兎・馬・羊】の中から怪談を一つ見つけるところまできた。
いよいよ取材に出なければならない時が来た。
動物の怪異に出会うためにはどこで取材をするのが良いだろうか?
悩んだ末に僕が行きついたのは、動物好きならば誰もが知っているあの場所だった——。

後編は近日公開!

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