7/6~7と7/13~15の計5日間、浦和の彩光舎美術研究所にて開催された「本物の怪文書と呪物展」。
その模様とキュレーターの1人である、関根津トムさんのインタビューをお届けする。
(インタビュー・写真●怪談ガタリー編集部)
怪文書と呪物が所狭しと配置されている部屋に圧倒されていると、玄関が開く音が。
現れたのはこの展示会の呪物担当キュレーター、関根津トムさんだった。
折角なので少しお話を聞いてみた。
——本日はよろしくお願いいたします。まず関根さんが呪物に興味を持った切っ掛けは何だったのでしょうか?
「呪物との衝撃的な出会いや体験があるって訳ではないのですが、美大受験のため美術予備校に通っていた時にずっと絵を描いていて、その時日本の禅画(主に禅僧が描いた絵画)をモチーフにした絵を描いたことがあって。それでちょっと興味が出て、ヤフオクで見つけた禅画の掛け軸を購入したんですけれども、届いたそれを手にとってみたら、古いものは時代の積み重ねが感じられて面白いなと。そこからそういう古いものを集めようって思ったんです」
——骨董やアンティークに興味が湧いたんですね。
「そうなんです。そこから骨董市とかにも行くようになって。で、そこに出店されている方々はただ品物を並べているだけじゃなくて、その骨董品に纏わる歴史や逸話、そういうものを一緒に説明してくれて」
——確かに、骨董市で店主の方とお話しすると、その品物の辿ってきた経緯なんかを教えてくれますよね。
「それをどんどん興味深く思うようになっていって」
——そこから所謂呪物や儀式に使われるようなアイテムを蒐集するようになっていったのは、そういうオカルトやホラーなものが元々お好きだったのでしょうか?
「そうですね。それと、美術品やアート作品全般を通して、“念”がこもってるなと感じる作品があるのですが、そういうものって勿論主観ですが見た目が違う気がして。自分も作品を制作していく中で、そういうモノを作りたいっていう思いや、そういう域まで到達出来たらなという憧れがあるのですが、それと同時にそういうものをコレクションしたいっていう欲求もあって。そういう“念”が感じられるものを集めている感じです」
——“念”が感じられるものを集めてて気が付いたら呪物だったんですね。もしかしたら言語化しづらいかもしれませんが、具体的に“念”を感じる作品ってどういうものでしょうか?
「多分僕が見様見真似で呪物を作ったとして、でもそれは、所謂呪術師が作ったのとはやっぱり雲泥の差があって。あっ、これはなんか触っちゃいけないな……みたいな感じが出るっていうか。それは多分細かく紐解いていけば、やり方の順序やコツがあったりだとか、絶妙なバランスであったりとか、様式美に通じるところがあるんだろうなと思うんです。きっと何かが細部に宿っている。最近岡本太郎美術館で“顕神の夢”って展示があって、そこで拝見した出口王仁三郎とかもまさに神がかり的で」
——蒐集歴はどの位になるのでしょうか?
「1年とちょっと位です。バイト代つぎ込んで結構な量が集まりました」
——どういった所で入手されているのでしょうか?
「だいたい骨董屋さんか、あとはネットですね」
——ネットというと?
「通販サイトとかじゃなく、フェイスブックで実際に呪物制作されている方を探して直接コンタクトをとったりして、今回展示しているハイチのものとかもそうなんですが。ただ、ちょっと自分でもどうやってたどり着いたのかよくわかんないんですよ。今検索で調べても全然出てこない人で」
——それはすごいですね……好きなものを探している時に訪れるある種の“ゾーン”のような状態なのかもしれませんね。今回の展示を企画したのはどういった経緯で?
「自分が収集したものをキュレーションして展示するのも作家活動の延長と捉えていて、今年に入って比嘉さん(怪文書担当)が、怪文書の展示をやりたいってお話があって、そこで意気投合したんです。元々は今年の10月か11月ころに行われるアートフェスティバル(岸町芸術祭)に参加させてもらっていて、そこでも呪物コレクションを展示する予定なのですが、それより前に比嘉さんとこういう展示ができないかなと企画しました」
——怪文書は昨年の某モキュメンタリー展示でもかなり注目を集めたアイテムかと思います。あえて「本物」に拘った理由は何だったのでしょうか?
「比嘉さんは昨年の怪文書展以前からずっと怪文書蒐集をしていて、その根底にあるのは、その怪文書を書いた人とコミュニケーションを取りたいという思いなんです」
——書いた人と?
「所謂“電波系”と呼ばれているこういうものに接する時って、書いてる人たちとの距離って、自分とは別世界みたいな、そういう距離の取り方が多かったかなと思うんですけど。比嘉さんは、むしろそういう人たちのメッセージに共感できるところを探していて」
——見世物小屋的な「面白いでしょう? 変ですよね?」という表面的な切り取りではなく、それを書いた人の思いにフォーカスしている?
「そうなんです。街中に貼られた怪文書はその殆どが捨てられちゃう訳で、ちゃんと人の目にも留まらないんで、それを一旦預かって、もっと人の目がちゃんと届く場所に置いておいてあげたい。そのメッセージを誰かに届けることで間接的にでも書いた人とのコミュニケーションを模索しているんです」
——比嘉さんとの出会いは?
「比嘉さんが主催している“未確認の会”というオカルトサークルで怪談会が定期的に開催されてて、そこで知り合いました」
——関根さんも怪談がお好きで?
「そうですね。呪物蒐集の過程で、その物に纏わる因縁や逸話なんかを聞いたりすることもあるので。例えば元の所有者さんが体験した怪異があったとして、それを譲り受けた骨董屋さんが、次の所有者になる僕にそのお話聞かせてくれて、僕はそれを展示の際にキャプションに書いたり、実際にお話ししてまた語り継ぐっていう、色々な人のレイヤーが重なっていく物語に魅力を感じています。そうやってずっと物語が残っていくって云う事には何か、語りたくなるような力があるんだろうなって」
——実際に持っていて、ちょっと不思議な体験をした物とかって御座いますか?
「僕が持ってるのは殆ど呪いとかじゃなくて、信仰のものであったり、基本的にはポジティブなものなんですけど、一回このルクテープ人形を大学に持っていった時に、電車に置き忘れちゃったんですよ。置き忘れてるのを気づかないまま電車から降りて階段上がってこうとしたら結構人混みだったんですけど、後ろから服の裾をピッて引っ張られたような気がして。でも振り返ったら誰も居なくて気のせいかなと思ったら、ルクテープ人形を忘れてるって思い出して。ひょっとしたら置いて行かないでって服を引っ張ってくれたのかなって」
——次回の構想などは如何でしょうか?
「比嘉さんはちょっと何を考えてるのかはわからないのですが(笑)。僕は、例えば博物館とかにこういう呪物が民俗学的なアプローチで展示されてたとしたら要らない情報としてカットされる、嘗てどういう人が持ってたとか、どういう人の手を渡ってきたとかを詳しく知りたい。呪物はそういう誰かの物語を運ぶ器のようなものだとも思っていて、その物語と呪物をどんどん成長させられるような展示を企画したいなと思ってます」
——呪物というと、どうしても禍々しい雰囲気のものってイメージが先行していると思うのですが、先ほど関根さんの呪物はポジティブなものが殆どと仰っておりました。呪物のイメージについてはいかがでしょうか?
「やはり因縁っていうものはあるのかなと思います。不思議なのは骨董屋さんでもその店主の方が歩んできた人生によって、集まってくるものが違ったりとか偏ったりとかがあって。なので僕は蒐集して、はいそこで終わりじゃなくて、もっと次の展開次の展開と、呪物に最適で沢山の人に見てもらえる場所に展示することで、その因縁を成長させていきたい。自分で持っているだけ、みたいなことにはしたくないんです」
——広く世界に伝えていきたい……それは比嘉さんの怪文書とも通じるテーマですね。
「一方通行じゃないというか、受け手のレスポンスがあって初めて成り立つものだと思うんです。怪談とかも、もしかしたらそうかもしれませんが、アートも、そもそもよくわかんないものを見に行くわけで。それを解釈する。そこに新たな物語が生まれる事が大事なんじゃないかなと」
——最後に、関根さんにとって呪物とは?
「自分にとって……」
——難しいですよね(笑)。
「ですね(笑)。今後もいっぱい集めて、沢山いろんな人に見せたいなって思います。そういう次の展開に対して、もっと凄いものに出会いたいっていう気持ちです」
——本日は、お忙しいところありがとうございました。
「こちらこそ、ありがとうございました」
取材中に会場スタッフの方がやって来て、
「何度やっても比嘉くんの文章が写らないんだけど……なんか文字はちゃんと出てるんだけど、印刷にかけるとなぜか真っ白になるんよ」
と言って白い紙を持ってきた。
また1つ、不思議な物語が生まれた瞬間だった。
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