
2026年6月7日、原宿。
トレンドとポップカルチャーが交錯する街の片隅、WITH HARAJUKU HALLは、いつもとは全く異なる異様な「冷気」に包まれていた。
米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア 2026(SSFF & ASIA 2026)」に、今年度超新星のごとく産声を上げた新設部門「ホラー&サスペンス部門 supported by CRG」。
その記念すべきお披露目であり、投稿ショートフィルムコンテスト(最恐賞)の発表の場となったイベントが、この『バズより、震え。〜縦型ホラーナイト〜』である。
「バズること」——すなわちSNSでの瞬間的な拡散や、アルゴリズムに最適化されたお手軽なポップネスが至上命題とされる現代において、このイベントが掲げたカウンターの旗印は、タイトル通り「バズより、震え」。
フォロワー数や再生回数といった記号的な数字ではなく、ただ観る者の脊髄を直撃し、脳裏にこびりついて離れない「本物の恐怖の才能」を炙り出すという、極めてホラー純度の高い試みだ。
集まった応募作は、1月から4月までのわずかな期間で実に273作品。
すべてが「9:16の縦型フォーマット」、かつ「30秒〜180秒以内」という、スマホ世代の視聴環境に特化した、しかし極限の制約を課されたショートフィルムたちである。
スマホの小さな画面から解き放たれ、暗転したホールの巨大スクリーンに映し出された縦型の「恐怖」は、想像を絶する圧迫感をもって私たちに迫ってきた。
今回は、その記念すべき恐宴の夜を、各部門でむき出しの才能を見せつけた受賞作のディテール、そして豪華ゲスト陣による白熱のコメントとともにレポートする。

豪華ゲストが語る「縦型の恐怖」
ステージに登壇したのは、この令和の恐怖の潮流をナビゲートするにふさわしい、濃密な4人だ。
『さがす』や『ガンニバル』など、現代の日本映画界において人間の業と不条理を描き続ける鬼才・片山慎三監督。
スーパー戦隊シリーズ『王様戦隊キングオージャー』のリタ・カニスカ役で脚光を浴び、現在は『仮面ライダーゼッツ』に出演中の新進気鋭の俳優・平川結月。
そして、いわく付きの呪物を100点以上蒐集し、怪談グランプリの覇者でもあるオカルト界のカリスマ・都市ボーイズのはやせやすひろ。
さらに、多くのエッジの効いた映画を手掛けるクリエイターエージェンシーCRGの代表・四宮隆史。


映画、演技、リアルな怪異、そしてプロデュース。
それぞれの視点から「縦型の恐怖」が解剖されていく。
イベントの幕開けは、はやせやすひろによる実話怪談。
『ガンニバル』のロケ地でもある岡山——その山奥にまつわる戦慄のエピソードが語られると、片山監督も「非常に興味深い。それだけで映画が一本撮れそう」と唸った。
ホール内の空気が一瞬にして「怪異を迎え入れる準備」を整えた中で、ついに各部門の最恐賞の発表と上映が始まった。
【テーマ・悪夢】最恐賞 『妻と夫と』 / 大豆計画 監督

毎晩のように、妻が屋上から飛び降りる夢を見る夫。
繰り返される「妻の死」という不条理なヴィジョンに蝕まれ、男の現実と虚構の境界線はじわじわと、しかし決定的に崩壊していく——。
本作の驚異的な点は、全編において「生成AI」の技術を用いて制作されているという点だ。
監督が撮影した静止画写真などをベースに、AIに演技と動画生成をさせて作られた世界。
画面に漂うどこか不自然な、人間味が削ぎ落とされた質感そのものが、そのまま「悪夢」の不気味さとリンクする。
「夢の中から目覚めてもまた夢、という『夢の中の夢』の構成が素晴らしい」と片山監督。
「無機質な感じが見ていてリアルで、最初はAIだと気づかなかった」と語る平川結月に対し、はやせやすひろも「演技力が僕より上で驚いた」と会場を笑わせたが、四宮氏が放った「大スクリーンで見るとさらに怖い。短い中にもドラマ性が凝縮されている」という言葉通り、縦型の画角を「上下の垂直方向の落下」というアクションに落とし込んだ、演出の勝利と言える一編だ。
【テーマ・恋】最恐賞 『ありがとう、ね』 / 乙木勇人 監督

暗闇の中を走る車——肝試しに行きたいという彼女の願いを叶えるための夜。
しかし、その甘酸っぱいはずの空気は、ワンカットで捉えられたカメラの動きとともに、徐々に取り返しのつかない戦慄へと変貌していく。
夜中に十数テイクを重ね、3分間という縛りを完全なワンカット撮影で駆け抜けたという過酷な舞台裏が明かされた本作。
監督自身から「肝試しに行くのが夢だった彼女の霊が、最後にその夢を叶えて成仏した物語」という切ない設定が明かされると、場内からはため息が漏れた。
「いつ何が来るのかと、観ている間ずっとドキドキハラハラした。観る人によって色々な捉え方ができるのが面白いです」と平川結月。
はやせ氏も「最初から細かい伏線が散りばめられていて、意味が分かってから2回目を観ると泣けてくるような深い作り込み」と絶賛。
単に驚かせる(ジャンプスケア)だけではなく、縦型画面の「狭さ」を活かして視線を誘導し、エモーショナルな物語を想起させるプロ顔負けの技量が光った。
【テーマ・友情】最恐賞 『【閲覧注意】電車で着物の女性にぶつかった結果 #shorts』 / 竹中貞人 監督

死者と通話ができるという謎の機械「天国フォン」。
日常の象徴であるはずの通勤電車の中で、主人公はその奇妙な機械をめぐる怪異、そして「友情」という関係性に潜むドス黒い裏切りに直面することになる。
最初はどこかノスタルジックで、感動的な話に着地するのかと思いきや、物語は一転して最悪の結末へと急降下する。
「藤子・F・不二雄先生の短編のような世界観を目指した」という竹中監督。
「呪物収集家として、この『天国フォン』が本当に欲しい! 日常の電車から異界へ引きずり込まれる都市伝説的な要素が見事に繋ぎ合わされている」とはやせ氏。
平川結月が「最後、幽霊が拍手して寄ってくる時に、手の甲と甲で拍手している(逆拍手)のがめちゃくちゃ不気味でゾクゾクした」と、その緻密な演出に目を見張れば、片山監督も「友達だと思っていた存在が、実はワイヤーを切った犯人かもしれないという、短い尺の中で様々な考察ができる」と、その脚本の強度を高く評価した。
【テーマ・仕事】最恐賞 『心霊写真屋』 / 川中玄貴 監督

Photoshopを使ってフェイクの「心霊写真」を合成・加工する裏方の男。
淡々と不気味な素材を切り貼りするデスクワークの最中、画面の中の“何か”が、そして男の背後の“現実”が、徐々に同期し始めて——。
数年前にメモしていたアイデアをベースに、締め切りのわずか3日前に自宅でワンオペで撮影・編集し切ったという驚異の作品。
縦型画面の左右にある「見えない余白」を逆手に取り、画面外の気配を演出する手腕が見事だ。
異変の直前、デスクの上のコーヒーカップが視認できるかできないかのレベルでわずかに動く。
その微細な違和感について、平川は「影やカップがじわじわと寄ってくる緊張感に、心拍数が上がりっぱなしだった」と大興奮。
「最後、あえて見せすぎずに振り返ったところで終わる『引き算の美学』が、観客の想像力をかき立てて素晴らしい」と片山監督。
映像に情報を詰め込みすぎず、観客の脳内に恐怖を完成させるという、まさに映画的な「引き算」が評価された。
2作品同時選出 「日常」に潜む逃げ場のない恐怖
共通テーマである「日常に潜む恐怖」からは、甲乙つけがたい圧倒的なクオリティにより、「特別最恐賞」として2作品が選出。

1作目は、平林勇監督の『STILL』。
代役として登壇したプロデューサーの石井氏からは「とにかく明るくてホラーっぽくない、アート的なアプローチのホラーを目指した」という、従来のジャンル映画の文脈を覆す意図が語られた。
四宮氏は「目線と息遣いだけで恐怖心を煽る没入感が圧倒的。観終わった後も『なぜこうなったのか』と考え続けさせる、ホラーとして一番強い力を持った作品」と、その作家性を絶賛した。

そしてもう1作は、春名星監督の『ずっとそこにいる』。
現役で実際の事故物件に住みながらホラーを撮り続けているという、筋金入りの監督だ。
本作が描くのは、一見するとどこにでもある、明るく楽しい家族の風景。
しかし、スマホのカメラがふと「下」を覗き込んだその瞬間、奈落のような恐怖が画面いっぱいに広がる。
この日常との凄まじい高低差に対して、はやせ氏は「描き方が、良い意味でむちゃくちゃ性格が悪い(笑)」と最大級の賛辞を贈り、会場は大きな拍手に包まれた。
なお会場では、僅差で惜しくも受賞には至らなかったものの、優秀だった作品として、朝比奈けい監督 『タイムリープ』、平岡亜紀監督『夢』 、カナタク監督 『オトモダチ』 、永田佳大監督 『Imago』 の4作品も上映された。
呪物が引き起こした(?)まさかのハプニング
いよいよイベントもクライマックス。
はやせ氏が「いわく付きの呪物」を実際にステージへ持参して紹介するコーナー。

しかし、怪異は思わぬ形で姿を表す。
はやせ氏が呪物の神棚を披露するため一度舞台袖へとハケた、その刹那。
「ドンッ!」
という鈍い音とともに、はやせ氏が派手に転倒するというまさかのハプニングが。
実はこの日、はやせ氏が身につけていた「白いハイカットスニーカー」までもが、いわく付きの呪物だったのだ。
客席は、ヒヤリとした空気が流れたものの悲鳴とも笑いともつかない奇妙な歓声が巻き起こった。

ショートフィルムの未来を拡張する「縦型」の創造力
今回選出された受賞者たちは、6月10日に開催されるSSFF & ASIA 2026の「アワードセレモニー」へと招待され、この6作品の中から栄えあるグランプリ「最震賞 supported by CRG」が決定する。
グランプリ受賞者には、CRG所属のSNSホラー映像作家として活動する道も用意されているという。

すべての作品の上映が終わり、客席の明かりが灯っても、WITH HARAJUKU HALLに充満した心地よい緊張感と熱気はしばらく冷めることがなかった。
スマホという、現代人が最もパーソナルに、かつ無防備に眺めるガラスの板。
それは今や、最もスリリングなクリエイティビティの実験場へと進化を遂げている。
画面の左右を大胆に削ぎ落とした「9:16の縦型フォーマット」は、一見すると制約に思える。
しかし、だからこそ生まれた「上下の垂直方向への落下」「視線を限定させる誘導」「画面外の余白を感じさせる気配」といった演出手腕は、従来の横型映画にはない、逃げ場のない没入感と圧迫感を観客に突きつけた。
ここから日本の、いや世界の映像カルチャーを変えていく可能性を秘めた、新時代のクリエイターたち——彼らが紡ぎ出したむき出しの才能は、スマホの小さな画面から解き放たれ、大スクリーンで見事な大輪の恐怖を咲かせてみせた。
日常のすぐ隣に潜む闇を覗き込むような『バズより、震え。〜縦型ホラーナイト〜』は、まさに令和のホラー史に新たな潮流を決定づける、最高に恐ろしく、エキサイティングな一夜だった。


















