シーンで活躍する怪談語りを深堀りするインタビュー企画「怪談語りがたり」。
今回は、怪談社の実話怪談師・糸柳寿昭さんご自身について話を伺った。
(インタビュー・写真●怪談ガタリー編集部)

沖縄から大阪へ
——それでは糸柳さん、幼少期のお話を聞かせていただけますか。
「あまり話せることがないんですけれど……、出身は沖縄の南のほうです」
——どのようなお子さんでしたか?
「活発な子でしたよ。本を読むことが好きだったんだけど、家には本がなかったから。よく近所の家に忍び込んで本を読んでは怒られていました」
——オカルト的なものですとか、心霊ですとか、そういったものに興味を持ち始めたのはいつ頃でしょうか?
「沖縄人はみんな、そういうものが好きですよ。けっこう身近だから。小さい頃から、大人がそういう類の話をしていたな。例えば、何でもキジムナーのせいにしたりね」
——学生時代はどのように過ごしていましたか?
「学校に通いながら、ずっと働いていました」
——当時、好きなものは何でしょうか?
「ないです」
——趣味なんかは……。
「ないです」
——なるほど。
「ずっと働いていましたから。大人になって大阪で暮らすようになりました」
初めての怪談語り
——大阪でもずっとお仕事をされていたのですか?
「そうです」
——糸柳さんが怪談を初めて人前で話したのは大阪時代なのでしょうか?
「そう。当時……、90年代のことだったと思うんだけれど、近所でお祭りがあって。そこに『怪談小屋』というものがあったんですよ。『怪談やってます』って書かれた小屋があって、客が一人でその中に入って怪談話を聴く場所」
——どういう経緯で、怪談小屋で語ることになったのでしょう?
「覚えてない、酔っ払ってたんで(笑)」
——そのとき語ったのは、どんな怪談でしたか?
「覚えてない(笑)」
——酔っ払った勢いで。
「話したろかな、みたいな(笑)。祭りに来ていた町内会の人と盛り上がって、そんな流れになったんだと思いますよ」
——その頃から怪談を意識的に集めていたのですか?
「いや、全然。でも怖い話は自然と集まってたから、お祭りみたいな場やお店でちょこちょこと怪談を語っていましたね。そんな時期に、とある怪談関係の催しに行ったんですよ。それが本当につまらなくて(笑)。でも話されている内容は面白い。『もったいないな』と思って、手伝ってあげるようになったんです。当時の僕は音楽イベントを手掛けていた関係もあって、集客の方法をアドバイスしたりしましたね。その頃からです。本格的に怪談語りを始めたのは」
怪談社が始動
——そこから怪談社さんの結成(2007年)に繋がるのでしょうか?
「そうですね。ただ結成当初のことはあまり覚えていなくて。もう20年近く前になるのかな」
——メインの活動はライブだったのですか?
「はい。当時はライブで怪談語りをしている人がとても少なかった。全国各地を探したんですが、ほとんど見つからなかった記憶があります。作家さんとか、ネットで怪談配信をしている人はいましたけどね」
——当時の活動のこだわりを教えていただけますか?
「それは怪談社としての? それとも僕の?」
——できれば両方聞かせていただきたいです。
「まず怪談社としてのこだわりは、『誰もやっていないことをやろう』ということ。それと『聞いた話を可能な限りそのままお客さんに伝えよう』ということかな。僕のこだわりは……、プロデュースに回るということ。僕は別に人前に出たくないので」
——当時のライブの規模はどれくらいだったのでしょうか?
「100人とか。それくらいの規模かな。お客さんには困らなかったですよ。さっきも言ったけれど、その頃はライブをやる怪談語りがいなかったから、僕らの独壇場みたいなところはありましたね。そのうち、自分たちがやっている催しに名前を付けたくなって。一生懸命に考えた挙句『怪談イベント』と名付けたんですよ。だから『怪談イベント』という言葉を使ったのは僕が最初ですね」
——糸柳さんが開催していた「怪談イベント」と、従来のいわゆるトークライブ・怪談会との違いは何でしょうか?
「語り手とお客さんの線引きがあるということかな。それに特殊なシチュエーションの催しをやるとか、舞台を演出することでしょうね」
——舞台の演出は、どこからインスピレーションを受けていましたか?
「映画ですね。鑑賞した作品から『こういうことをやりたい』というものを舞台に落とし込んでいた気がしますね」
——ちなみに、糸柳さんが好きな映画は何ですか?
「そう聞かれたときは『パルプ・フィクション』と答えることにしています。こういうとき、タランティーノ作品って便利だよね(笑)。あの映画の独特の『間』が好きなんだと思いますよ」
——先ほど『誰もやっていないことをやろう』とおっしゃっていましたが、どんなイベントを思い出しますか?
「そうね……。怪談を語っている横で、ギンティ小林さんが僕の頭をバリカンで剃って行くっていう。そんなこともやりました」
——それは斬新な……(編集部絶句)。

次回は、現在の怪談社について、朗読について、糸柳さんが今の怪談界ついて思うことなどを紹介したい。