怪談語りがたり 響洋平 後編

シーンで活躍する怪談語りを深堀りするインタビュー企画「怪談語りがたり」。
5回目に登場するのは響洋平さん。
後編となる今回は、響さんが怪談を語るうえで大切にしていること、これからやっていきたいことなどについて話を聞いた。
(インタビュー・写真●怪談ガタリー編集部)

前編はこちら

響洋平 1978年9月13日生まれ 京都府出身

イベントに関わっていく

——響さんが怪談を本格的に始めた頃、怪談会は数えるくらいしかなかったのでしょうか。

「いたこ28号さんによれば、2010年頃から怪談会が増え始めたようです。そんな時期、僕は偶然にも『はすとばら』で怪談を始めたことになりますね」

——現在、シーンの最前線で活躍している多くの人が、2010年代の話題になると「はすとばら」の響さんのことを話すんです。響さんが意識していなくても、たくさんの人に影響を与えていたのですね。

「当時の僕は本当に怪談界隈のことを知らなかったので、ありがたいです。でも本当に『はすとばら』の怪談会には予定調和ではない“ライブ感”と偶然性があって、とても楽しかったです」

——DJ、クラブカルチャーと共通する部分があるかもしれませんね。

「確かにそうです。その時にしか生まれないグルーヴ感は、クラブカルチャーも同様ですし、それが良かったのかもしれません」

——以降はイベントに出る機会が増えていったのですか?

「ぁみさんのライブに出たり、人前で怪談を語る機会が少しずつ増えていきました。個人でもクラブの怪談イベント主催するようになって、『アンダーグラウンド怪談レジスタンス』というイベントをやったこともありましたね」

——それはどのようなイベントだったのですか?

「クラブという場所を使って、『はすとばら』のグルーヴ感、みんなで怪異を紡ぐ感覚を再現しようとしたイベントでしたね。座談会形式で、お客さんにも怪談を話してもらいました。この時も色々な方が来てくださって、ぁみさんをはじめ夜馬裕さん、インディさんが怪談を話してくれましたね」

——場所はどのあたりだったのですか?

「最初は中野ヘビーシックで、それから青山のゼロ、中目黒ソルファで開催しました。ソルファに関しては特に思い出があって、ちょうど8月13日の『怪談の日』が制定された頃だったんですよ。それを知ったぁみさんから連絡があって、『せっかくだから何かやりましょう』ということになったんです。かなり急だったので会場がなかなか見付からなかったのですが、怪談好きのソルファの店長と知り合いだったので、相談をしたらすぐに貸してくれることになって、無事にイベントをやることができました」

響さんの怪談

——以前、住倉カオスさんが「響さんの怪談は、つい昨日聞いてきたような興奮をそのまま届ける語り口だ」と言っていて、それが印章に残っています。

「ありがとうございます。そうですね……『怪談が好き』と『知りたい』という好奇心を強く持っていて、ロマンというと聞こえはいいかもしれませんが、『幽霊はいるのだろうか』『不思議な世界ってあるのだろうか』という興味がずっとあるんです。僕にはいわゆる霊感がないので、そういった体験をされた方のお話はとても貴重なんです。その話を聞いたときに感じたときめきや、ワクワクを伝えたいと思っています」

——響さんの怪談に対する姿勢というか、想いを教えてください。

「ちょっと想像してほしいんですが、この記事をスマホやPCで読んでいるとき、突然肩をトン、トンと叩かれた。肩を叩いたのは冷たい男の手で、感触がしっかり残っている。でも、振り返ると誰もいない……。これってめちゃくちゃ怖いですよね。もし僕が体験したとしても怖いと思います。これをストーリーで捉えると『肩を叩かれて、振り返ったら誰もいない』というだけの話なんです。でも、体験者の方はめちゃくちゃ怖かった。それを伝えられたらいいな、とは思っています」

——体験者の気持ち、恐怖を大切にしたいと。

「そうですね。怪談をストーリーだけでなく、体験者の方の温度感も併せて伝えたい。そこを大切にしています」

怪談カルチャーについて

——現在の怪談カルチャーは、響さんにどう映っていますか?

「すごく面白いですよね。それぞれのスタイルを持った色々な方々が怪談を語っている。怪談の様々なカタチが生まれているような気がします。プレイヤーがそれだけ面白いので、今まで怪談に興味がなかった人たちが『怪談ってこんなに面白いんだ』って感じる機会が増えてほしいと思っています」

——「はすとばら」の怪談会もそうだと思いますが、響さん自身が「普段怪談に触れない人」に向けて怪談を語る、ということを続けていますものね。

「そういう空気感が好きなんでしょうね。未体験の人たちが怪談に触れて、繋がっていくような……そんな場がどんどん生まれてほしいと思っています」

——そういえば先日、YouTubeチャンネル「オカルトエンタメ大学」さんのほうで、響さんは建築の知識とオカルトが融合した内容の動画に出演されていましたね。

「あれは『オカルトエンタメ大学』のプロデューサーさんと飲みに行った時、僕が大学時代に建築の勉強をしていたことを話したのがきっかけです。他にも、風水の研究をしていたオカルトマニアの大学院の助手の話や、僕が書いた論文の話をしました」

——ちなみに、どのような論文を書かれたのですか?

「『小学校で危険とされる空間の特性』というテーマでした。簡単に説明すると、小学校のどういった空間で犯罪が起きやすいのか、というものです。色々な小学校に行って、先生にアンケートを取ったりしましたね。そんな話を『オカルトエンタメ大学』のプロデューサーさんとしていたら、『じゃあ、どういった空間に幽霊が出やすいんでしょうね』という話になったんです。そんな経緯でした」

キーワードは「怪談体験」

——そのように新たなコンテンツを生み出し続けている響さんですが、今後どのようなことがしたいですか?

「1つ目はすでにやっていることですが、東京都港区にある増上寺で開催している『不可思議話会』ですね。普段は一般公開されない増上寺の『光摂殿大広間』という場所で行われる怪談イベントで、天井に素晴らしい日本画が描かれている場所にキャンドルアートを用意して、夕方から日が落ちる時間帯に怪談を楽しんでもらおうという趣旨で開催しているのですが、これは『怪談を体験する場』をどう作るかに興味があるからなんです。僕はそれを『怪談体験』と呼んでいます。どうやったら新しい怪談体験の場を提供できるか。それに可能性を感じていますし、突き詰めていきたいですね」

——響さんと住倉さんがやっている『オカルトロニカ』にもクロスオーバーする気がします。

「そうですね。『オカルトロニカ』は、即興のインプロビゼーションと怪談を掛け合わせるとどうなるか、という実験的な場でもあると思っています。第1回目は『降霊怪談』というテーマで、メインの目的はあくまで降霊でした。いわば『幽霊を呼び寄せるために怪談をやる』という発想でしたね」

——2つ目は何でしょうか?

「これはアイディアを練っているところなのですが、『クラブカルチャーと怪談の親和性』というものに、さらにもう1段階踏み込みたいと思ってます。現在のクラブシーンって『このアーティストが、DJが好きだからクラブに行く』というお客さんが多い気がしています。でもひと昔前は、クラブそのものが目当てのお客さんが多かったように思うんです。『ここに行けば良い音が聴ける』とか、アーティストよりも空間目当てですよね」

——怪談に関しても、もっとカジュアルに楽しめる場があってもいいんじゃないかということでしょうか。

「『今日誰が出てるかわからないけれど、その箱に行って遊ぼう』みたいな、空間そのものを楽しめる場ですね。なんというか、そうすることで怪談そのものにもっと焦点を合わせられるのではないかと思っています」

——響さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

「ありがとうございました」

幼い頃からずっと変わらぬ好奇心と探求心で怪談を集め伝え続けるロマンチスト……響さんの怪談の魅力は、その少年のようなまなざしで語られる怪談にふれる時、我々もまた童心にかえって一緒にワクワクしているからなのかもしれません。
響さん、貴重なお話をありがとうございました。

「響さんにとっての怪談とは?」

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