「恐点 〜怪談大忌利〜」に辿り着けてよかった1年でした

ホームタウン主催恐点怪談大忌利

この日に辿り着くために、私は1年強、怪談イベントに通い続けたのかもしれない。
イベント終盤、そんなご縁を感じて打ち震えるような、主催者や怪談師のみなさま、そしてオーディエンスが一体となって全力で場を作り上げているイベント。
それが今回紹介する「恐点 〜怪談大忌利〜(以降「恐点」)」です。
「恐点」は、司会者が出す様々なお題にあわせて怪談師が実話怪談を披露する怪談会
「モノボケ」ならぬ「モノ怖」をはじめとする見たことないような趣向を凝らしたコンテンツがもりだくさんで、いわゆる通常の「怪談イベント」とは一線を画します。
ですので、これを見て「『怪談イベント』ってこういうもの」と考えることはできないのですが、それでもなお怪談イベント未体験の方に行ってみてほしいイベントの決定版だと思いましたので、その思いをお届けすべくレポートしていきたいと思います。

春・夏・秋の「恐点」を勝ち抜いた強者揃いの怪談師による「冬の陣2024」

まず今回のイベントの立ち位置についてです。
実はこの「恐点」、2024年になってから春・夏・秋と開催されてきての4回目で、「冬の陣2024」という副題がついています。
そしてこの冬の陣はなんと、過去3回それぞれの1位、2位となった2名、計6名の強者たちが集まるいわゆる頂上決戦的な回になるということでした。

つまり!!
今回の「恐点」で優勝した怪談師の方は2024年の恐点の頂点(Top of Kyoten)の座を獲得します。

そして冒頭にも書いた通り「恐点」というのは、「怪談師さんが怪談を話す」という前提部分は変わりませんが、紹介文にも「時節柄のお題や、小道具を使った“モノ怖”等、新しい怪談の楽しみ方を探求します」とあり、他のイベントとは違う斬新な枠組みで内容が構成されています。
(つまりあの、某お笑いご長寿人気番組へのリスペクトが込められた内容となっています)

その熱さや面白さは噂には聞き及んでいたものの、私は今回が初めての「恐点」。
割と早くから申し込んで楽しみにしていました。

なお、主催兼司会進行はガタリー編集長でもあるホームタウンさん。
司会進行のアシスタント役としては宿屋ヒルベルトさん。

春・夏・秋の陣を勝ち抜いた猛者のみなさま、登壇する怪談師さんたちは以下の方々でした。

  • 蛙坂須美
  • オダギリダイキ
  • Dr.マキダシ
  • 深津さくら
  • 若本衣織
  • 八重光樹

さて、それでは実際のイベントの模様をお届けしてまいります。

熱気あふれる中、恐点の幕開け——座布団の代わりに千羽鶴。

会場に到着するとたくさんの来場者で行列ができていました。
到着順ではなく予約時に発行された整理番号順に入場する形式で、人気のほどが窺えます。

冒頭ホームタウンさんが挨拶し、1人ずつ怪談師さんが入場して抱負を一言ずつ。
「この恐点のために、11〜12月のすべての怪談イベントをお断りしてきました」と語る若本衣織さんや「白星をあげるために全身真っ白にしてきました」と話すDr.マキダシさんなど、挨拶の時点で気合十分で会場はさっそく大盛り上がりです。

企画が始まる前に、まずはルール説明です。
お題にぴったりのよき怪談を語った方には、座布団の代わりにアシスタントのヒルベルトさんが、「廃病院で拾ってきた千羽鶴をバラしたもの」を1羽ずつ配布するシステム。
イベントの最後にはオーディエンスも1人1羽ずつ投票でき、この鶴の数で順位がつきます。
こういったところも小技が利いていて素敵ですね。

さて、ここからは実際に出されたお題と特に印象に残ったシーンを中心にご紹介します。

まるで大喜利!? 「進化する怪談」「キーワード怪談」

1つ目は、開催日がチャールズ・ダーウィンが『種の起源』を出版した「進化の日」であることにちなみ、「進化する怪談」がテーマ。

つまりどういうことかというと……

怪談の中にはお話が終わったと見せかけて実は続きがあって大きく意味合いが変わるものや、最初に語られてから時を経て内容に新たな解釈や情報が加わったものなどがあり、それを「進化する怪談」として話すのが今回のお題。

「進化する」部分を語る前に一度話を切り、ホームタウンさんが「それで話は終わり?」ときかれてから、「進化パート」を語るのがルールだそうです。
まさに大喜利のような掛け合いです。

ちょっと難しそうな印象を持ちましたが、怪談師さんは説明を受けた時点で「なるほど」と頷いており、既に思い浮かぶ怪談があるようでした。

「では話したい人」とホームタウンさんが声をかけると、一斉に挙手。
みなさん速いです。

トップバッターを飾ったのは、中でも最速で手を挙げた八重光樹さん。
霊感が強い方に起きたちょっとコミカルな雰囲気の怪談。
「それで話は終わり?」から新情報が付加され、ぞっとするお話に進化するというもので、「あ、なるほど、こういうのが『進化する怪談』か」と納得します。

そこから怪談師さん全員の「進化する怪談」が語られるのですがどれもユニークな進化を遂げており、また、この「進化」という要素が実話怪談ならではでとても面白いテーマだと感じました。

同テーマの最後は若本衣織さん。
幼馴染の変わった友人についての幼いころのエピソードだったのですが、全く嚙むことないマシンガントークで語られるその内容が手に汗握るスリリングさで、会場中が圧倒されていました。
進化前で十分お腹いっぱいなのに、進化後で十数年後に初めて明かされた真相が語られてさらにインパクトが増し、「とんでもないお話を聞いてしまった感」がすごかったです。

続いて「キーワード怪談」
時節柄に合わせて、複数のキーワードが提示され、それらを含む怪談を披露するというものです。
今回は「年末」や「雪」、「忘年会」など、冬にちなんだもので、怪談としてはいろいろありそうなので、どこでその方らしさ、恐点らしさを出していくのかが気になるところでした。

「タクシー怪談雪の日ver.」を語る蛙坂須美さん、遠野に続く新たな拠点、新潟で収集した怪談を披露したオダギリダイキさんなど個性が光ります。

年末に死ぬかもしれない病院での一夜を情感を込めて語るDr.マキダシさんのお話は、きいてるだけで胸が苦しくなるような、けれども最終的には縁起もよさそうなお正月シーズンにぴったりの内容なのが印象的でした。

また、深津さくらさんは、自身が体験した怪異と取材した怪異の内容がクロスするのかと思いきや、ヒトコワ的なドンデン返しがあり、最後に「ええー」とどよめきの声が。

そしてここでも若本衣織さんがキーワードのうち「雪」「コート」「マフラー」「スキー」「大掃除」「忘年会」「大晦日」「正月」と8個も使って語ってお題に最大限答える、しかもしっかり怖い怪談をお話しており、恐点の強者たる実力を見せつけていました。

唯一準備可能な「1分怪談」はギリギリを攻める

さて、前半戦の最後は「1分怪談」
その名の通り、背景のスクリーンにタイマーが表示され、スタートの合図と共にカウントダウン開始
1分以内で終わる怪談を話すという緊張感あふれる企画です。
タイムオーバーしたら例の鶴はもちろんもらえません。

このお題だけは事前練習が可能ということで、オダギリダイキさんがてきぱきと話し、ギリギリ1分に収まる怪談を披露。
Dr.マキダシさんが「語るスピード感でわかるよ、めっちゃ練習してきたでしょ」と突っ込みを入れて笑いが起きます。

メドレーのようにみなさまの怪談をきくのは通常のじっと耳を傾けるようなスタイルとは違っていて、とっても新鮮で面白い!
ギリギリを攻めてくれた方が内容が濃くなりハラハラドキドキを楽しむことができ、オーディエンスの印象には強く残るので、短ければいいというわけではなく、いい塩梅が難しいお題だなと後から感じました。

この流れで八重光樹さんが「お祓い」に行かなければいけなくなるのですが(理由はご本人にお尋ねください)、八重光樹さん、このお題に限らずそれぞれの怪談に適度にリアクションしていて、トリッキーなお題で怪談を語るだけでなく裏回しまで担っていて、なんて器用なんだと密かに驚いていました。

クライマックスは「モノボケ」ならぬ「モノ怖」

休憩を挟んで第2部に突入、ラストの企画「モノ怖」が始まります。
おそらく未体験の方も想像に難くないと思いますが、「モノ怖」とは大喜利の「モノボケ」同様に用意された小道具を用いて怪談を話すというものです。

テーブルにずらっと並ぶ小道具たち。
キーワードならその言葉を出せばいいけれど、語りの中で道具を使うというのはいくらなんでも高等テクニックすぎるのでは、と思いつつも、そんな面白そうな怪談ぜひきいてみたいという思いでワックワクです。

最初の数話こそ純粋にその道具を道具のまま使う、というものだったのですが(それだけでも十分すごいのに)、だんだんと道具の使い方にもオリジナリティが生まれていきます。

「これはバレーボールです」と語るオダギリさん。
(最終的に怪談で道具を十分にいかせていなかったことから鶴をもらえず。きびしい審査!)

自らの着ていた白衣も演出の一部に使ってしまうマキダシさん。

折り畳み傘やらコップやらを魔改造して銃に仕立て上げてしまう若本さん。

蛙坂須美さんと八重光樹さんはそれぞれ2回ずつチャレンジしていてとてもアグレッシブ。

そのマフラーと帽子をどう使うんだろうと思って最後の決定的な演出で使った深津さくらさん。
「その発想はなかった」の連続です。

最後は「恐点の締めとして」と想いを込めた怪談を八重光樹さんが語って「モノ怖」は幕を閉じました。

もう本当に会場がひとつになって怪談を全力で楽しんでいるような空気感があって、怪談イベントの世界と出会えて、こうしてこの気持ちを綴れる場をいただけて本当によかった、と思うような大満足の時間でした。

そしていよいよ投票タイム。なんと1票差で1位に輝いたのは……この方!

盛り上がりすぎてだいぶイベントは長引いていましたが、ここで怪談師さんが一時退場し「投票タイム」に入ります。
約50名にも及ぶ参加者が前に出て一羽ずつ鶴をいただき、この人こそ恐点の頂点(Top of Kyoten)という方に投票します。

なんという悩ましい時間。
前に出てきてからも誰に投票するか決めかねて右往左往する方もいらっしゃいました。
結果はどうなったかといいますと……

3位 八重光樹さん!

2位 若本衣織さん!!

そして1位、初代恐点の頂点(Top of Kyoten)の地位を獲得したのは……深津さくらさん!!!

ガッツポーズを決める深津さくらさん。

1位と2位の差は1票! なんという接戦!

2025年もライトに怪談イベントを楽しんでもいいでしょうか?

怪談ガタリーができてから数か月に渡って、未だに月に1回くらいの頻度で怪談イベントに足を運びレポートをかいてきた筆者は、未だ怪談イベント初心者を脱することはできておらず、毎度恐縮しておりますが、「恐点」に辿り着けてよかった……と心から思います。

怪談イベントが初めてという方でも「笑点」のことは知っていると思いますし、怪談語りの多様性を感じることができ、「恐点」は“はじめの一歩”としてぜひオススメしたいイベントです。

レポートとして面白さのすべてをお伝えするのは非常に難しく、来年もまた実施することが決まっているので(恐点2025〜春の陣〜は2025/3/23開催!)、少しでも気になったら「ぜひ足を運んでみて!」という想いです。

今後も引き続き、拙いながらも初心者視点で怪談イベントの様子をお伝えしてもいいものでしょうか……?
「怪談イベントを見に行きたいけれど、私が行っていいものなのかな」と思う方のハードルを下げていければと思います。

Kana
2023年初めて怪談ライブに行き、本職での10年以上の広報経験から多くの人にその魅力を広めたくなってコラムを始める。
はじめての怪談レポートはこちら
雑談系Podcast「誤り続けるオンナたち」配信中。
「ぽんのうず」でホラーゲーム制作にも挑戦。

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