深夜の着信

政人さんは大学三年の夏休み、男二人、女性三人のグループで長野県のとあるキャンプ場に行った。
「本格的な就職活動が始まる前の思い出作りに」と、それぞれが奮発し合ってコテージを借りたのだ。
洒落たデザインの建物は、室内にほんのり香る木の匂いが印象的だった。
荷ほどきを終えるとバーベキュー場で食事をし、近くを流れる川を見たり、山道を散策して過ごした。
夜になるとコテージに戻って、買い込んだ缶ビールやチューハイ片手に他愛もない雑談が始まった。

日付けが変わる頃、政人さんのスマホが鳴った。
知らない番号からの着信だったので無視をしたが、着信音は鳴り止まなかった。
怪訝に思った友達がその番号をウェブで検索すると、政人さんたちがいるキャンプ場の固定電話の番号がヒットした。
「管理事務所からか?」
「うちら、うるさくし過ぎたのかもしれないよ」
「出たほうがいいんじゃない?」
そんな話になり政人さんは電話に出るが、相手は無言だった。
「……もしもし?」
何度か尋ねるが、沈黙だけが続く。
掛け間違いかと電話を切ろうとすると、か細い男性の声が聞こえた。
「女がそちらに行きました。ドアをノックされても絶対に開けないでください」
それだけ言って電話は切れた。
急に不安になり窓という窓のカーテンを閉めたが、いたずらにしては気味が悪くて外は見れなかった。
「どうしたの?」
政人さんが事情を説明すると、女性陣は冗談か本気かわからない叫び声を上げた。
「誰かのいたずらじゃないの?」
政人さんもそう思って、気を取り直してまた飲もうということになったが、午前一時過ぎ——また政人さんのスマホが鳴った。
管理事務所だ。
それを知った全員が不安そうに黙った。政人さんも怖かったが、せっかくの旅を台無しにされた気分と、怒りに近い感情のほうが強くなって電話に出た。
「おい! お前いい加減にしろよ!」
そう言った直後、か細い男性の声が聞こえた。
「女が窓のところにいます。絶対にカーテンを開けないでください」
それだけ言って電話は切れた。
「ねぇ、何て言われたの?」
「文句を言ったら電話が切れた」と嘘をついた政人さんは、その後朝まで眠れなかった。

午前七時過ぎ、政人さんと男友達で管理事務所に向かった。
昨夜の件で文句を言うと、男性職員に「そんな筈はない」と否定された。
「ここの固定電話、故障中で。そもそも電話線が差さっていないんです、ほら」
職員が指さした電話線は、確かに抜かれていた。
「週明けに業者が来て復旧するはずなんですけど……」
そう言われ訳が分からず事務所を出ると、ふと入り口に貼ってあるA4サイズの紙に目が留まった。
紙には大きく、
「管理事務所に用事がある方は090-○○××……」
と書かれていた。

政人さんは今でも、あの夜の電話はタチの悪いいたずらだったと思い込むようにしているそうだ。

おてもと真悟
2022年怪談最恐戦出場を機に語り手としてデビュー。怪談ユニット「テラーサマナーズ」「言ノ葉怪.」での活動や、「島田秀平のお怪談巡り」「恋する怪」「真夜中の怪談」などメディア出演も多く、FMラジオTOKYO854「あなたに聞かせたいこわい話」が毎月第二金曜23時から生放送中。今後も更なる活躍が期待される。

関連記事

TOP