『怪の帖 美喰礼賛』出版記念 読み切り怪談 2024.09.04 2024/08/29(木)発売となった『怪の帖 美喰礼賛』。著者である宿屋ヒルベルトが、「食」に纏わる怪異と不気味な体験を丹念に取材して纏めた怪談集である。今回その出版を記念して、本書には惜しくも収録されなかった一編を、怪談ガタリー特別読み切り掲載する。お口に合いましたら是非、酒、肉、魚、
奇妙な露店 2024.08.18 今から約十二年程前。東京都にあるT駅の北口を、僕の友人A君が友達と歩いていた。その際、小さな露店を見つけた。それは、とても変わった露店で、店には何も置いていなかったそうだ。「何のお店何だろうな?」よく見ると、そこには小さな看板が出ていて、こう書かれていた。『貴方の持ち物を全て現金化します』
溜め池 2024.08.17 平成六年の頃の話である。その年、日本は記録的な水不足に見舞われた。語り手である舞香さんはまさに深刻な水不足に悩まされた四国地方の人で、家の裏手にある溜め池が枯渇するほどの被害を体験した。溜め池は古くからそこに存在するもので、池の中には鯉や鮒なども泳いでいたそうである。日本中が渇水の話題で大騒ぎする
深夜の着信 2024.08.16 政人さんは大学三年の夏休み、男二人、女性三人のグループで長野県のとあるキャンプ場に行った。「本格的な就職活動が始まる前の思い出作りに」と、それぞれが奮発し合ってコテージを借りたのだ。洒落たデザインの建物は、室内にほんのり香る木の匂いが印象的だった。荷ほどきを終えるとバーベキュー場で食事をし、近くを
闇バイト 2024.08.15 朋子さんは妹夫婦を数年前に事故で亡くした。妹夫婦には高校生の息子が一人いた。とても出来が良く、自慢の息子だと二人はいつも誇らしげだった。朋子さんにとっても可愛い甥っ子だ。名前は博之といった。妹夫婦が亡くなってからは、短い期間であるが一緒に住み、博之の親代わりになっていた。けれど博之は独立心が強く、
フルーツ牛乳 2024.08.14 「私、子供の頃からフルーツ牛乳が飲めないんです」北関東の長閑な田園地域で生まれ育った里子さん。小学校二年生のある秋のこと、その日は習字教室が延びてすっかり帰るのが遅くなってしまった。通い慣れているとはいえ夜は殆ど人通りもなく、だだっ広い道を一人でトボトボと歩くのはとても心細かった。何よりこ
そういうことになっている家 2024.08.13 十歳になった年の夏休みだったと、恭平さんは言う。「その子」のことを三つ下なんだ、と思ったから間違いないと。恭平さんの父親は建築士で、当時は地元の大きな工務店の設計課にいたという。現場に出ることも多く残業や休日出勤が常態の職場だったそうで、子供の頃、親父にどこかに連れて行ってもらった記憶は殆どない—
母の声 2024.08.12 母が亡くなった時のことだ。葬儀場には大らかだった母を慕う親類縁者が、沢山参列してくれた。家族と過ごす時間が大好きだった母は、盆暮正月は勿論、誰かの誕生日やクリスマス、挙句には節分まで叔父や叔母、従兄弟や再従兄弟も呼んで賑やかに過ごした。損失感と悲しみはあったが、母の思い出話になれば自然と皆