怪談語りがたり 深津さくら 後編

シーンで活躍する怪談語りを深堀りするインタビュー企画「怪談語りがたり」。
今回は深津さくらさんインタビューの後編。
おばけ座結成、怪談最恐戦2023、今後の展望などについて話を伺った。
(インタビュー・写真●怪談ガタリー編集部)

深津さくら 1992年生まれ 茨城県水戸市出身

おばけ座の結成

——改めて、おばけ座が結成した経緯について教えてください。

「2023年の1月に『今年したいことは何かな』って考えたんですよ。怪談活動として色々なことをやってきたけど、今自分が本当にやりたいことは何だろうって。その中で頭に浮かんだのが『仲間がほしい』ということでした。これまでたくさんの人に良くしてもらってきましたが、先輩が多かったんです。そこで『横のつながりをもっと強めたい』と思うようになりました」

——そのことを最初に伝えた相手は誰でしたか?

「チビルマくんですね。たまたま彼と会ったときにそんな話題になったんですよ。話を聞くと、チビルマくんは色々な人から『YouTubeチャンネルをやらないの?』って言われていた時期で、『ひとりでやるのは難しい』と思っていた矢先だったみたいで。『じゃあ一緒にグループを組んでやってみようか』と思ったそうで、ある日グループを結成しませんか? という文言とともにYoutubeの企画書が送られてきました。そこに気の合いそうなメンバーも載っていて、それがおばけ座結成のきっかけですね」

——ワダさん、伊勢海若さんはどのような理由で声がかかったのでしょうか?

「怪談に対しての感性が似ていたり、グッとくるポイントが共通していることが主な理由だそうですが、ワダさんは元からチビルマくんと仲が良くて、一緒にイベントをしたり旅行に行ったりしていたんです。伊勢くんは大分県で本格的な怪談活動を始めたばかりだったのですが、私と大阪でイベントに出演したときの評判がすごく良かったんですよ。『大分に面白い怪談をする人がいる』って。チビルマくんにも『大分に気が合いそうな人がいるよ』という声が届いていたようで、二人はまだ喋ったこともない状態でしたが、おばけ座の企画書を見たら伊勢くんの名前もメンバーとして載っていてびっくりしました」

——伊勢さんの登場はインパクトがありましたね。

「『変な面白い人が出てきたなぁ』って思った人は多いかもしれませんね(笑)」

——おばけ座の活動として、まずYouTubeがあったというわけですね。

「そうです。最初にYouTubeチャンネルを立ち上げて、それから色々なイベントに呼んでもらえるようになりました」

——結成当初はどのような雰囲気でしたか? ギクシャクしましたか?

「いや、そんなことはありませんでした。伊勢くん以外は元から面識があったので、お互い気を遣わずにスタートできましたね。伊勢くんは最初かしこまっていましたが、今はみんなに優しくしてもらってのびのびやっています(笑)」

——YouTubeでの活動を始めてみて、どのような感触を得ましたか?

「私たちの怪談を認知してくれる層がかなり広がったと感じました。地方での怪談イベントに出演するときも『YouTubeの動画を観ました』と声をかけてもらえることが増えましたし、より多くの人に怪談を届けられるようになったと思います。始めて良かったですね」

——YouTubeチャンネルの企画は、皆さんで話し合って決めているのでしょうか?

「そうですね。個々のやりたいことを、全員で楽しみながらやっている感じです。おばけ座のYouTubeチャンネルでは週に1回、取材したばかりの怪談を語る『きいてる怪』という企画をやっているのですが、みんなで上手く持ち回りをしながら続けています」

“伊勢海若”という男

——差し支えがなければですが、メンバーのどなたかに何か言いたいことはありますか?

「伊勢海若についてなんですが、日本語が適当なときがあって気になってます(笑)。彼は独特の言語センスを持っていて、会話の中で『ひげもじゃ』というワードを『ひげむじゃらのひげじゃら』と表現していました。それが気になって話が入ってきませんでしたね(笑)」

——確かに独特な表現をされますね(笑)。

「おばけ座のグループLINEには『伊勢語録』というノートがあって、彼の変わった言葉を記録しています。かつて私が伊勢くんに、私の両親が結婚していた時期のことを笑い話として伝えたことがあったのですが、彼は神妙な表情で『かつて、そんなお父さんとお母さんがコラボしたんですね……』としみじみ言ったんです。人の親の結婚のことを『コラボ』って言うんだ! って(笑)」

——昨年末に開催された「怪談甲子園」でも、伊勢さんは印象に残る語りをされていましたね。深津さんを含め、おばけ座のみなさんが応援に駆けつけていたのを覚えています。

「伊勢くんがどんな話で挑むか、おばけ座のみんなで話し合いました。本番での語りを後ろで見ていて、彼の緊張が伝わってきました。でも、一度失敗してから巻き返したじゃないですか。彼はイベントでも、たまにああいう奇跡を起こすんです。生まれ持った能力というか……。それは羨ましいと思います」

怪談最恐戦2023

——賞レースといえば、深津さんが優勝された「怪談最恐戦2023」には、おばけ座のみなさんが出場しましたね。

「そうなんです。私以外は途中で敗退してしまって……。それ以降は、ひとつひとつ『負けたくない』って思いながら怪談を語りました」

——我々も含め、深津さんの優勝で新時代の到来を感じた人は多かったと思います。「3分怪談」というルールはいかがでしたか?

「すごく大変でした(笑)。勝てると嬉しいんですけど、決勝が近付くにつれて、かなり追い込まれましたね。でも、良い思い出として残っています」

——そんな深津さんを含め、おばけ座の話を聞いていると、みなさんからは『ただひたすらに怪談を語りたい』というストイックさを感じます。

「チビルマくんがよく『自分はただ純粋に怪談を集めて発信する人でありたい』と言っていて、その怪談原理主義的な言葉にみんな共感してやっているところはあると思います」

——「怪談を語る」ということを純粋に、ある種貪欲に楽しんでいるということでしょうか。

「そうだと思います。確かに結成して初期は『集まれるときに動画が撮れればいいか』というムードだったのですが、『きいてる怪』がスタートしてからは、かなり怪談収集に関して意識を高く持つようになった気がしますね」

——おばけ座の活動で一番印象に残っているイベントは何でしょうか?

「どれも楽しかった思い出が残っていますが、強いて言うなら2024年の9月に愛知県豊田市で開催された『橋の下世界音楽祭』という野外フェスかもしれません。期間中に怪談のブースをつくったのですが、普段怪談に触れない人たちとたくさん語り合うことができました。そこでの出会いがとても面白かったですね。怪談というコミュニケーションの広がりを感じました」

おばけ座、深津さくらのこれから

——おばけ座の今後について聞かせてください。

「おばけ座はみんな社会人で、それぞれがバラバラの土地でそれぞれの生活があるので、ずっと今と同じような形で続いていくというよりは、ライフスタイルの移り変わりとともに活動のやり方が変化していくと思っています。それでも、ゆるくどこまでも続いていく気がしますね。『怪談が好きだ』という気持ちひとつで集っている者たちなので、長続きはすると思っています。みんなのタイミングが合うときにイベントや配信をして、形を工夫しながら、そのときの興味が合う方向に向かっていきたいです」

——深津さん個人のこれからについては、どうお考えでしょうか。

「私は関西に家があるのですが東京での仕事がほとんどで、関東と関西を行ったり来たりを繰り返していました。月の半分以上は東京にいる暮らしだったのですが、その間はずっとホテルなので、なかなか気が休まらず……。それを解消するため、最近東京に部屋を借りて、単身赴任のような暮らしを始めたんです。これまでの私は『パート主婦』のようなお気楽な感じで、いただいた怪談の仕事をただただ楽しくしていたのですが、そうもいかなくなってきたので、新しい生活は怪談を糧として成り立たせていきたいです」

——深津さん、本日はありがとうございました。

「こちらこそ、ありがとうございました……あ、そうだ。東京の部屋を借りて、引っ越しをして鍵を受け取ったその日に、なぜか手のひらがパックリ割れたんですよ。その跡が少し残っているのですが痛みはまったくないんです。ただ、塞がった傷跡が新しい手相のようになっていて。それで先日、島田秀平さんに会ったときに手相を見てもらったんですよ。そうしたら『これはアナウンサー線ですね』って。どうやら、何か言葉を伝える人に現われる手相だそうで。これが引っ越し初日の出来事だったので、何かあるんじゃないかなと嬉しくなりました。だからこれからは、さらに怪談を頑張りたいです。自分発信のイベントを企画したり、配信をしたり、本もたくさん出したい。『怪談とともに生きる』がテーマですね」

今後も「怪談師とおばけ座」「東京と大阪」ふたつの拠点を行き来しながら、純粋に貪欲に怪談と向き合い、怪談とともに生きる深津さんの更なる活躍に期待です。
深津さん、貴重なお話をありがとうございました。

「深津さんにとっての怪談とは?」

リンク
おばけ座(YouTubeチャンネル)

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