チルい怪談会「CHILL怪」のチルじゃない運営姿勢が素敵でした

怪談イベントchill怪出演おてもとホームタウン八重光樹バーミヤン市谷小田切大輝

実はこのコラムの話をいただいた当初から、「CHILL怪(以降チル怪)」に行ってレポートを書きたいと思っていました。
一見くつろぐ・まったり過ごすという意味のある“Chill”とは相性の悪そうな“怪談”を掛け合わせたイベントで、初めての人にも楽しんでほしいという想いも込められていると、私がまだ怪談イベントをほとんど知らなかった頃にきいて、興味を持っていたからです。
しかも、“Chill”をテーマにしている割に「MCK=Most Chilling Kwaidanist」を決め最下位には罰ゲームがあるという、怪談師さんにとって全然チルいと言えない仕組みを導入しているっていうじゃないですか。
どういうこと!?
というわけで、謎が深まるばかりの中、何が“Chill”で何が“Chill”じゃないのか“Chill”とはいったい何なのか、怪談イベント初心者視点で考えつつ、楽しんできました。

人生初怪談会をキメたい人にもおすすめらしい、チル怪とは

チル怪は、遠野を中心に怪談師として活動されているオダギリダイキ(小田切大輝)さんが主催するイベントで、初回は2023年12月に開かれて大好評を博したそうです。
今回私がいってきたのはその2回目の開催となる「Chill怪vol.2 Summer Night」

告知文にはこうあります。

あの!chill怪のvol.2が夏の夜に開催!

怖いだけじゃない怪談の魅力を楽しんでもらうための怪談会。
人生初怪談会をキメたい人にもおすすめの公演です。
(略)
夏の一夜、貸し切ったレンタルマンションルームでチルなひとときを過ごしましょう。

CHILL怪vol.2 サマーナイト(怪談ガタリー)

もう、このイベント名とコンセプトがうまいですよね。

実は私、このイベントに行ったこともないのに、怪談界隈を全く知らない友人に「最近、面白い怪談イベントがいろいろあるよ」という話をする際の例としてこの「チル怪」の名前を挙げていました
「そんな面白そうなのもあるんだ、知らなかった!」と興味を持っていただけることもたびたびありました。

確かに、怪談をきいて湧き上がる気持ちって「怖い」だけじゃない。“Chill”が何なのかわからないけれど、別の角度から怪談を考えるイベントっていいなと思うし、よりカジュアルな場のように感じられます。

しかも、明確に「人生初怪談会をキメたい人にもおすすめの公演」と書いてくれているので、私のような初心者でも1人で参加してみよう、と勇気が出ます。

参加する怪談師さんは主催の小田切さんに、前回も参加したおてもと真悟さん、ホームタウンさん、八重光樹さん、そして新メンバーとして加わったバーミヤン市谷さんの5名。
怪談イベントの告知でよく目にする勢いのある方々で、わくわくするキャスティング、という印象です。

MCK=Most Chilling Kwaidanistって何?

私が最初にこのチル怪が気になったきっかけは、参加者の1人であるおてもと真悟さんのポッドキャストでした。
というのも「チル怪談を話すのに、ギラギラしすぎていたせいで、最下位になってしまった」というようなことを、敗北感に打ちひしがれながらお話されていまして。

え、どういうこと?
まだ、怪談イベントにほぼ行ったことがなかった私は頭の中が疑問符でいっぱいに。

なんでも、このイベントでは「MCK=Most Chilling Kwaidanist」を決めるのだそうです。
詳細はこちらの小田切さんのX投稿をご覧ください。

つまり、イベント全体の満足度と一番「チルい」怪談を披露した人をその場で参加者が投票し、イベントの満足度が低かった場合、一番「チル」から遠いと判断された怪談師さんが罰ゲームをするという仕組みのようでした。

なんていうか、“Chill”の対極を行くようなストイックな運営スタンスです。

この投稿の最後に書いてある「お客さんはリラックスしながらも、語り手は全力でみなさまを満足させにかかる、それがCHILL怪なのです!」というのがこのイベントの本質のようで。
初回から半年以上たっても、そんなスタンスを表明する怪談イベントはきいたことがなく、ますます行ってみたいなと思った次第です。

ファンシーなマンションの一室にゆるい服装の怪談師さんたち

さて、イベント当日。本当に夏の暑い日の夕暮れ時でした。
おそるおそる会場らしきマンションの一室に足を踏み入れると、怪談を話しそうもない、どちらかというと女子会でも始まりそうな雰囲気のお部屋にぎゅぎゅっとお客さんが入っており、かわいい椅子に腰かけています。

飲食も自由ということで、お菓子が回ってきたり、早々にお酒を飲み始める人がいたり、なかなかにフリーダムです。

前方には、出演する怪談師さんたちが最前列のお客さんと1メートルも離れていないような距離感でニコニコていました。

服装もなんだかいつもと違ったゆるっとした雰囲気で、そのあとの小田切さんの説明によれば、怪談師さんそれぞれの考える「チルい」服装で参加しているんだそうです。

小田切さんの銭湯スタイル、バーミヤン市谷さんの浴衣姿は特に夏のリラックス感があふれていました。

笑いあり、涙あり!? 渾身の「チル怪談」を1人ずつ披露する第一部

冒頭、小田切さんから挨拶、開催趣旨の説明の後、早速第一部へと入っていきます。

どんなチル怪談をお話しされていたかざっくりとご紹介しますと……

小田切さんはドライブ中に夢現で体験した動物たちのパレードのお話を披露。怖いことじゃないならば、体験してみたくすらなる不思議なお話でした。「遠野物語」に登場する不思議な存在たちと共生する感覚にも通じるのかも、などと勝手に思ってお聴きしていました。

前回MCKの八重光樹さんが語ったのは友人同士で集まろうとする中で起きた、不可解な出来事(でもその出来事に救われた話)などからひょっとしてこれは(バルク理論的)マルチバースが存在する!? という仮説を立てて考えてみるようなお話。話す内容もですが、八重さんの心地よい語り口が“Chill”だなと改めて思います。

ホームタウンさんはプロレスラーの稽古場での謎の風習にまつわる珍事を紹介していました。内容が具体的で映像が浮かんでくるような印象的なシーンや会話が多く、想像が膨らみ、少し切なくて、くすっと笑えて、最後はほっこり楽しめました。

バーミヤン市谷さんはいろんな店に入るたびに隣に誰かいると思われてしまった不思議な出来事からの、バーのマスターとの会話で締められるほろりと泣けるような怪談でした。とにかく自分の持ってる中でも「いい話」を持ってきたということでなるほど納得です。

おてもと真悟さんはライブ会場で少し浮いていた、美しい着物の女性が、その着物を着るようになった、怖くない幽霊体験がどんなものだったのかを語ります。幽霊との出会いが自身の生き方をカジュアルに変える感じ、とってもいいなと思ってしまいました。

それぞれの方の“Chill”の解釈に私も考えさせられ、また、確かに震え上がったりびっくりしたりぞっとしたりする要素はほとんどなかったと思います。
こういう話が出てくるのが実話怪談ならではだなーと、思って楽しませていただきました。

(記憶が曖昧で間違ったことも含まれているかもしれず、気になる方はぜひご本人のライブなどで話を聞いてみてください。)

いざ、投票タイムへ。気になる結果は!?

休憩時間も兼ねて投票タイムへ。

小田切さんによるとチル怪ではNPSという「顧客満足度を測る指標」を採用している、ということでした。
詳しい計算方法はここでは割愛しますが、マーケティング活動においてもよく採用される「マイナス」となることもけっこうあるスコアです。

この数値と一番「チルい」と思った怪談師さんをアンケートフォームに入力します。

前回開催時の数値は「47」と非常に高い満足度を獲得しており、第一部の集計がこの点を下回ったら罰ゲームが行われるとのこと。
ただ、罰ゲームといっても得票数の低い怪談師さんがその方のオリジンになるような「活動開始当初に話していた怪談」を語るという、来場者にとっては、ただうれしいだけの内容なのでした。

私が誰に入れたのかは秘密です。
が、「エモい」と「チルい」は分けて考えたい派で、感動するというよりは、焚き火を囲みながら心地よくお話を聞いて、まったりあれは何だったんだろうねーと会話が盛り上がりそうな怪談に投票しました。

さて気になる結果ですが……

満足度「14」
前回越えならず!! 残念!!

というのもまだ第一部だけの結果で、ここから第二部への期待感も残る中での投票ですし、大好評で幕を閉じた前回の数値を上回るのは、最初からなかなかに難易度高めだったというわけです。

そして、「チルい」怪談師得票数順位は……
栄えある第1位が小田切さん&バーミヤン市谷さん(同率1位)、3位八重光樹さん、4位おてもと真悟さん。
そしてなんと最下位はホームタウンさんに!

ホームタウンさんが怪談師として活動して間もない頃の思い出深い怪談を語ってくれることになり、やっぱり来場者にとっては得しかない罰ゲームとなりました。

第二部はお誕生日祝いを含むフリートーク

第二部は罰ゲームの怪談語りに始まり、怪談師さんたちが怪談を次々繰り出すフリートーク。
ですがその前に、おてもと真悟さんが記念すべき40歳のバースデーを迎えたということで、サプライズお祝いが。

怪談イベントど真ん中で誕生日のお祝いしても違和感ない雰囲気、これぞまさにチル怪の醍醐味という感じです。

ちなみにおてもとさんはこのイベントの前夜、「怪談ガタリー presents 百物語」にオールで出演した後、昼は川崎でユニットのテラサマとして怪談イベントをこなし、移動時間の仮眠を経て、このチル怪に辿り着いたそうで。

「“Chill”の本質とはまどろみと心得ました」と冒頭から挨拶し、全くチルでない一日を過ごしている様子に心配になりつつも、笑ってしまいました。
というか登壇した怪談師さんのうち3人がこの百物語に参加して徹夜明けだそうで……チルいどころか、だいぶパワープレイで生き急いでいる感があります。

後半の怪談フリートークも「怖いだけが怪談じゃない」のテーマをしっかり踏まえた、不思議な出来事の話で盛り上がりました。
MCKの投票から解放されたこともあってか、笑いもたくさん起きるような、ますます和やかな時間だったと思います。

しかし、終わった後は再び満足度調査や今後のチル怪に呼びたい怪談師さんのアンケートなどを実施
この結果を踏まえて次回のチル怪が改善され、怪談師さんの入れ替えも検討するということでした。
最後まできっちり!

怪談師さんたちが全力で参加するからこそ成立する「チル怪」

私は仕事で自身でもよくイベントを企画・運営しています。
手前味噌ですが、参加していただいた方に有意義な時間だったと感じていただけるように、それはもう毎回全力投球し、いただいたフィードバックはすべて書き出して次回に活かしています。
チル怪もそういった心意気を随所に感じることができました。

私たちがチルい、リラックスしたムードで怪談を楽しんでいる裏には、小田切さんをはじめとした怪談師のみなさまの全力のおもてなしマインドと積み上げてきた怪談語りの技術が詰まっているといえばいいのか。
そして、きっと素敵な怪談イベントの多くは表には出ていなくともそういった想いが込められているんだろうとも思います。

特にチル怪は怪談を新しい角度から見つめなおし、初めての人にも怪談をきくハードルを下げようという姿勢が伝わってきて、怪談を普段きく機会のない友人にも薦めたいなと行ってみて改めて思いました。

きっとアンケートを経て、次のチル怪はさらにグレードアップしたものになるんだろうと今から楽しみでなりません。

今後も引き続き、初心者視点でこうした想いのこもった怪談イベントの様子をお伝えし、「怪談イベントを見に行きたいけれど、私が行っていいものなのかな」と思う方のハードルを下げていければと思います。

Kana
2023年初めて怪談ライブに行き、本職での10年以上の広報経験から多くの人にその魅力を広めたくなってコラムを始める。
はじめての怪談レポートはこちら
雑談系Podcast「誤り続けるオンナたち」配信中。
「ぽんのうず」でホラーゲーム制作にも挑戦。

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