奇妙な露店

今から約十二年程前。
東京都にあるT駅の北口を、僕の友人A君が友達と歩いていた。
その際、小さな露店を見つけた。
それは、とても変わった露店で、店には何も置いていなかったそうだ。
「何のお店何だろうな?」
よく見ると、そこには小さな看板が出ていて、こう書かれていた。

『貴方の持ち物を全て現金化します』

「本当に何でも買い取ってくれるんですか?」
店主にそう聞くと「勿論です」と言う。
友達は「それじゃあ」と、カバンに入っていた使いかけのボールペンを店主に手渡すと、それは十円の値がついた。
「えっ、面白いじゃん。本当に何でも買い取ってくれるの? じゃあ物じゃないんだけど、俺腰痛持ちだから腰痛買い取って欲しいんだけど?」
すると、A君の腰痛は五十円で売れた。
売れたからといって、勿論腰痛が無くなった訳ではなかったが、満足してその日は帰る事にした。
それから暫くしてA君が露店の近くを通ると、店主が警察官二人組に注意をされていた。
もうここで商売出来ないのかもしれないなと思ったA君は、前回一緒に露店に行った友達にその場で連絡を入れて、呼び出すことにした。
合流した友達と二人で、店主に話しかける。
「次はどこでやる予定なんですか?」
「まだ決まっていません」
「実は前々から気になってたんですけど……一番高く買い取った金額って幾らなんですか?」
「一番高くですか……五十万円です」
何を買い取ったのかを聞くと、それは寿命だという。
正直寿命を買い取るなんて嘘っぽいし、馬鹿馬鹿しいと思ったが、仮にもし本当だったとしたら、命の価値が五十万というのも安すぎる気がした。
「じゃあ記念に、俺の寿命も高く買い取って貰おうかな」
A君はそう言うと、店主は取り付く島もなく「無理です」と答えた。
「えっ? なんで無理なの?」
「あなたは八万円ですね」
「はぁ? 何で俺そんなに安いの? 五十万で買い取った奴いるんでしょ? 五十万で買い取ってよ」
「無理なんですよ。八万円にしかならないんです」
「いや。冗談でも人の命八万円とか……マジで笑えないんだけど」
「すみません」
そう言って店主は店じまいをすると、その場から居なくなった。

A君は、二〇二一年八月二十八日に亡くなってしまった。
病名は『新型コロナウイルス肺炎』。

二〇二一年は、A君が店主に八万円と言われてから丁度八年目だった。

三好一平
声優をしながら怪談を楽しんでいる。特にヒトコワが好き。
2022年の怪談最恐戦から人前で怪談を話し始めた。
2024年の4月からは自身のYouTubeチャンネルも開始。
おおぐろ海賊船メンバー。

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