母の声

母が亡くなった時のことだ。

葬儀場には大らかだった母を慕う親類縁者が、沢山参列してくれた。
家族と過ごす時間が大好きだった母は、盆暮正月は勿論、誰かの誕生日やクリスマス、挙句には節分まで叔父や叔母、従兄弟や再従兄弟も呼んで賑やかに過ごした。
損失感と悲しみはあったが、母の思い出話になれば自然と皆笑みが溢れる、葬儀とは思えないほどとても和やかな見送りだった。

出棺の時間。

山の上に建つ火葬場へは、先導する霊柩車の後ろを走るマイクロバスで向かう。
遺影を抱え後部座席の窓際で、緩やかに流れる景色を見ながら母を思い出していた。
やがて、それまで続いていた林道が途切れ、整地された場所に出た。
そこは新しく出来た市営墓地だった。
母のお墓も此処に買ってある。
(今度は此処にお墓参りに来るんだなぁ)
そんな事を思った瞬間、

「そんなに早よ入れんといてな」

と耳元でハッキリ聞こえた。

母の声だった。

驚いて振り返ったが、最後列だったので後ろには誰も居ない。
離れた場所で談笑していた叔母たちに母の声がした事を話すと、
「お母さんらしいな、あの人家族のこと大好きやったもんねぇ」

このお話を聞かせてくれた恵美さんは納骨を暫くせず、お母さんのお骨は仏壇に置いて毎日手を合わせているそうだ。

ホームタウン
怪談ガタリー編集長。現在『杜下怪談会』『谷中怪談会』『銀座一丁目怪談』『恐点』等、都内を中心に怪談会の主催や出演など精力的に活動中。共著に『呪録 怪の産声』『予言怪談』『たらちね怪談』など。『伝承異聞 呪林』が竹書房怪談文庫より8月29日に発売予定。

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